情報誌 ISO NETWORK Vol.20

[特集]これからの環境マネジメントシステムを考える 第二部 ISO 14001を自主的に利用し競争力を強化している事例

[株式会社 ブリヂストン]社会をリードする環境経営の基軸となる環境マネジメントシステム 環境推進部長 碓井俊一氏 環境推進部 環境改善ユニット 主任部員 石川伸次氏

統合化の第2ステージは、環境経営への大転換だった

ブリヂストングループは、タイヤ会社・ゴム会社として「名実共に世界一の地位の確立」を経営の最終目標に掲げている。すでに規模の面では世界一の地位は現実的なものになっており、現在は「実」の部分、企業経営の本質的な部分から世界一になるべく全社的な取り組みを進めている。

こうした考えから、企業活動における環境への配慮を経営の最重要課題の一つと位置づけ、2009年に「環境宣言」を制定した。それは、あらゆる事業活動は地球資源なくしては成り立たず、世界中で事業展開している企業として率先して環境負荷の低減に取り組んでいかねばならないという認識を明確にしたものだ。「未来のすべての子どもたちが『安心』して暮らしていくために…」という思いを込めた「環境宣言」は、2002年に制定した「環境理念」を改訂したものだ。「環境理念」から「環境宣言」への移行―。ここにはブリヂストングループの環境マネジメントシステムの進化が反映されている。

ブリヂストングループでは、「環境宣言」の策定された2009年以降を環境マネジメントシステムの第3ステージと位置づけている。

第1ステージは、1990年代から2000年にかけてそれぞれの生産拠点がISO 14001の認証取得を行った時期。公害防止など汚染対策を講じていることをお客さまに証明し、ビジネスをスムーズに運ぶことが主目的だった。

第2ステージは2003年の環境マネジメントシステムの統合化だ。事業の中心に環境を据えた経営にハンドルが切られ、国内では生産拠点だけでなく本社や開発まで統合して一つのマネジメントシステムを構築し、サイト統合認証を取得した。

碓井部長は「今もそうですが、環境マネジメントシステムがトップの意思と社員をつなげるツールとして非常に重要な役割を果たしています。統合化によってグループ全体でやるんだという認識が生まれ、多くの人を巻き込めるようになった。現在はようやく、末端まで事業として考えてもらえるところまできたかな、という感じです」と言う。

「環境宣言」はグローバル展開のための背骨となる思想

第3ステージの目標は何か。

ブリヂストングループは世界中で14万人が働き、約190の生産拠点を保有している。グループ全体を巻き込んだ環境経営に移行するためには、この14万人を動かすのが第3ステージの目標だ。

ブリヂストングループ環境宣言 ブリヂストングループ環境宣言

ブリヂストングループでは、背骨となるところは変えずに年々少しずつリニューアルしながら「環境方針」を策定していた。ところがグローバルとなるとそれぞれの国や地域によって環境に対する考え方も異なり、進捗もそれぞれ違う。それを一つの方針として束ねていくのは難しいということから、背骨となる思想を出したのが「環境宣言」だ。

ブリヂストングループにはSBU(Strategy Business Unit:戦略的事業ユニット)という事業推進の形がある。企業の大きな方針や方向性に基づいてそれぞれの拠点や部門などが自主的に事業活動を展開するものだ。「環境宣言」は、いわばEMS体制の中で各地域の環境統括機能に対して活動の方向性を示したもの。各SBUではこれを基にそれぞれが自主性を発揮しながら環境活動を推進する。

そのシンボルが3方向に枝を伸ばす木をかたどった「環境の基本姿勢」の図だ。

本業における環境活動の3つの領域として「商品・サービス」と「モノづくり」と本業以外の分野での活動を表す「社会貢献」を掲げている。これらを支える2つの基軸がグループの環境マネジメントシステムである「TEAMS(Total Environmental Advanced Management System)」と、「環境コミュニケーション」だ。

この「環境宣言」は、世界の拠点に向け現地の言語に翻訳して展開した。工場で働く契約社員まで含めたすべての従業員にわかるようにしようという狙いだ。

「『環境宣言』で大きな方向性や意思の部分を押さえ、環境統括機能の部門が影響評価などの細かい部分を押さえる。そして、その中間の自分たちの経営で回していけるところは各SBUの独自性でやってもらう。“自治を行う余地を残した統合化”がグローバルに展開できるのが理想形」と碓井部長。

EMSの仕組みの中でイノベーションを導き出すことができる

外部環境の変化を予見して環境経営のステージを先駆的に高めてきているブリヂストングループ。環境中長期計画(2006-2010年)では、「環境経営プログラム」「エコランクアッププログラム」「リスクマネジメントプログラム」の3分野で、最終目標に向けた取り組み項目ごとに年度目標を定め、進捗状況を確認しながら次年度の目標を定めている。たとえば環境経営プログラムでは、グローバル統一環境マネジメントシステムの構築を目指し国内・海外生産系グループ会社全社のISO 14001取得を進めるとともに、グローバル統一環境情報インフラや環境教育プログラムの整備を進めている。

「組織として人を巻き込んでいく方法には二つあります。一つは、無関係だと思っているところに対して何をしなければいけないのか、役割分担をきちっと作って巻き込んでいく方法。もう一つは要求レベルを上げていくことによって新たに必要となる資源や業務が生まれることで、新たな人たちを巻き込んでいく方法です」と碓井部長は言う。

「プログラムの目標を一段と高いものにすれば、当然今までのやり方では到達できないから、革新とか改革につながるプラン(P)を作らざるを得なくなる。ISO 14001をそこにうまく結びつけていくことで、環境マネジメントシステムの仕組みの中でイノベーションを導き出すことはできると思います」と石川主任。

確かに、環境保全レベルで規制値を目標値として考えるのではなく、環境経営を経営の基軸と考えて規制値の10分の1、100分の1にしようとなった場合、イノベーションを起こさない限りその目標値には届かなくなる。

「地球温暖化、資源循環の面でイノベーションを起こせるところまでやって行きたい。生物多様性への対応も今後の大きな課題だ」、「世の中を環境面で引っ張っていける会社になりたい」とするブリヂストングループ。
すでに、資源循環の観点から、運輸業界向けに新品タイヤとリトレッドタイヤにメンテナンスサービスをセットにしたソリューションを提供する『エコ バリュー パック』といった新しいビジネスが誕生している。

ブリヂストングループのISO 14001認証取得状況