情報誌 ISO NETWORK Vol.23

[ISO 50001認証取得事例]Case study 1 EnMSは事業活動そのもの-強固に練り上げたエネルギーマネジメントシステムを事業運営に活用

代表取締役社長 山本浩三氏代表取締役社長 山本 浩三氏

東京・渋谷区にある恵比寿ガーデンプレイスは、サッポロビール恵比寿工場の跡地に造られた複合施設である。オフィスやレストランなど多様な施設を備え、都市再開発事業の先駆としても知られるこの街全体の地域冷暖房を、約17年間担ってきたのが、サッポログループの地域熱供給会社、株式会社東京エネルギーサービスだ。2011年8月12日、同社ではISO 50001の認証をいち早く取得した。認証取得に至った背景と、実際の活動で得たメリット、今後の取り組みについて、同社の代表取締役社長である山本 浩三氏と取締役技術部長の堀田 英二氏にうかがった。

切望されたISO 50001導入と6つの目的

先進の複合施設、恵比寿ガーデンプレイスの冷暖房を一手に引き受ける株式会社東京エネルギーサービスは、環境にやさしい省エネ型の地域冷暖房を追求している。同社が実践する地域冷暖房とは、都市ガスをエネルギー源に利用してコージェネレーションシステムで電気や蒸気を作り、さらに蒸気から熱交換の仕組みなどで冷水や温水を作り出し、該当地域全体の冷暖房に活用するというものだ。一般的な建物別の冷暖房と比較すると、集約した設備によってエネルギーの安定供給・有効利用が図れ、メンテナンスコスト抑制や省スペース化といった多様なメリットがある。

同事業にとってエネルギーマネジメントは、まさに事業そのものという位置づけだ。それだけに国際規格になったISO 50001の導入は、同社にとって切実な要望であった。

「2001年にISO 14001の認証を取得し、その枠内でエネルギーマネジメントシステムの構築・運用に取り組み、一定の成果を得てきました。ただISO 14001でのエネルギーマネジメントの割合は全体の1割ほどですが、当社には9割に値する重要なもの。これを進化させることが事業の成長・発展に直結します。エネルギーマネジメントに特化したISO 50001は、まさに渡りに舟。うってつけの規格でした」。

山本社長が力を込めて語り、導入の背景に、次の6つの目的を挙げた。

  1. エネルギーマネジメントを強固にすること(よりシステマティックにコントロールするため)
  2. 設備更新計画への活用(次の20年間を担う高効率設備への転換)
  3. 東京都環境確保条例への対応(CO2削減の義務付けに適応)
  4. 省エネ法との連動(エネルギー原単位削減目標への対応)
  5. エネルギーセキュリティ向上への活用(震災後に課題となった安定供給へ向け、エネルギーの最適構成を追求)
  6. 恵比寿ガーデンプレイス防災価値向上への寄与(冷温熱の安定供給による防災価値向上)

同社は、ISO 50001の国際規格化が見えてきた2010年10月には取り組みを開始。その後、社内に委員会を立ち上げて、担当スタッフの育成にも力を入れてきた。4月にマニュアルを制定し、6月に内部監査、マネジメントレビューを経て、6月15日のISO 50001発行後間もなくJQAによる1stステージ審査を受け、7月末の2ndステージ審査後、8月12日の認証に至った。

「ISO 14001を取得していたことが助けとなり、さほど手間をかけることなく取り組めました。審査もISO 14001との複合審査とし、方針については環境・エネルギー方針として一体化し、新たに作成したのはマニュアルとレビュー規定のみ。他の関連規定は共有化しました。また内部監査員も、ISO 14001のスタッフの再教育で対応しました。ISO 50001共通の根幹であるエネルギーベースライン、エネルギーレビュー、エネルギーパフォーマンス指標といった用語の理解には難しさを感じましたが、そこを乗り越えると、日常業務に直結しているだけに、一気に理解が進みました」。

堀田部長が、こう述懐した。社員の省エネ意識もより鮮明化し、継続的に行ってきた提案活動にも、エネルギーをいかに効率よく利用するかの視点が増え、効果が期待できるようだ。

毎月のマネジメントに役立て、レベルアップした省エネへ

具体的な成果として、2011年度の目標であるエネルギー原単位前年比10%削減、CO2排出原単位10%削減の達成が見えてきた。特に、運用管理の強化と設備更新のコンビネーションによる省エネは大きなメリットになるという。

「設備導入計画は、現状分析の後、環境負荷低減、コストメリット、高効率といった色々な観点で洗い直して機種選定を行い、さらに導入後も運用管理規定を通じてさらに効率化します。もちろん既存設備も運用管理で省エネのレベルアップに努めます。ISO 14001から引き継いだ仕組みを、さらに効率よく運用できるようになったと評価しています」(堀田部長)。

設備更新はエネルギーマネジメントを大きく進展させる好機であり、今後の取り組みでも焦点になってくる。

取締役技術部長 堀田英二氏 取締役技術部長
堀田 英二氏

「原発事故の後、節電が求められる状況が続き、エネルギー単価の変動も目まぐるしく、先行きが不透明です。こうした状況のもとでは、エネルギーレビューで随時細かい検討を行い、PDCAをまわしていくことが、毎月の事業運営上、重要となります。社会的にも今後、省エネ習慣は定着し、当社のような事業者への要請もハイレベルになっていくでしょう。省エネが進めば、短期的に当社の売上は減少へ向かうのですが、そういう局面でも収益を確保できる体制を作らなければなりません。しぼり切ったエネルギーをさらにしぼり切るような、一段高い質の省エネを目指す必要があります。厳しいですが、正しい方向に向かっていると言えます。ISO 50001での取り組みを通じて、エネルギー節約の社会的要請に柔軟に応え、設備の節減、効率化を実践したいですね」(山本社長)。

ISO 50001の導入は、ISO 14001への取り組みにも、よい刺激になっている。ISO 50001のパフォーマンス重視の視点を応用し、ISO 14001をさらに実効性の高い環境活動につなげられるという期待感もある。最後に山本社長がこう締めくくった。

「ISOの審査については、当初は単純にPDCAがまわっているかを軸に見られてきた印象があります。しかし、審査の中身も年々進化し、最近では会社の業績向上や効率アップに貢献しているシステムかどうかに重心が置かれている感触があります。実際に会社に役立っているかどうかの評価を得て、いわば魂の入ったISOになってきたなと思います。どの規格もうまく併用して、有効活用していければと考えています」。

株式会社東京エネルギーサービス