情報誌 ISO NETWORK Vol.24

巻頭特集 東北の登録組織インタビュー ISOマネジメントシステムを経営に生かして 株式会社 アベデン

ものづくりのプロフェッショナルとして現場力に磨きをかける

福島県二本松市に本社を置く株式会社アベデンは、複写機用ワイヤハーネスの加工から事業を興し、現在では、量産化しにくい特殊用途の電子・電気機器向けの電線加工などを中心にユニークな事業を展開している。

同社太田事業所は、従業員数9名という小所帯ながら、主力製品のワイヤハーネスの専門工場として、顧客の要望に適切に応えるためにISO 9001を活用している。代表取締役社長の安部 敏弘氏に、認証取得の経緯と、今後の方向性などについてうかがった。

代表取締役 安部 敏弘氏 代表取締役 安部 敏弘氏

少量多品種の製造現場にISOを導入

「ISOのよいところは、管理ができること。製品一つひとつの品質がたまたま得られたものなのか、管理されたなかで実現しているものなのかで、その後の改善に大きな差が出ます」。

株式会社アベデンの安部社長は、ISO 9001の導入効果をこのように語る。「社員一人ひとりがよいものをきちんと作ることに毎日努力していますが、日々の仕事に追われると客観的な目で管理することが、どうしてもおろそかになってきます。ISOの導入で一定期間ごとに品質のデータを取るようになり、その成果を確認することで課題や改善のポイントが見えやすくなりました」。

アベデンは、1975年に複写機用のワイヤハーネス(複数の電線を束にした集合部品)の加工メーカーとして発足した。その後、円高の進行で主要得意先の複写機メーカーをはじめ、量産電子機器の生産が軒並み海外に移管されるなか、同社は海外移管されにくい特殊用途の製品にターゲットを絞り、電線加工技術・機器組み立てノウハウを生かし、着実に販路を広げてきた。

「みなさんの目につくところでは、新幹線のホームの発車案内装置に弊社のハーネスが組み込まれています。また、船舶用無線機、介護ベッド、スマートフォン基地局ハブ、アルコール検知装置などの回路ハーネスも製造しています」(安部社長)。

アベデンは、「ものづくりのプロフェッショナル」を標榜し、高品質であるだけでなく、試作、短納期、ローコストなど現代の製造に対するさまざまなニーズに応えるともに、客先の製造工程内のムダ取りやカイゼン提案でも評価を得ている。

「お客さま満足のための一つの目標として『顧客からのクレームゼロ』は永く続いています。ISOを運用することで、その結果に満足するのではなく、工程内での不具合や手戻りをなくしていくために、原因の分析やミス防止の方策を共有できるようになってきました」(本社品質・技術課長 佐藤 克紀氏)。

リーマンショックをきっかけにISO認証を取得

ワイヤハーネスに加え、FA(産業機械)や各種ユニットの組み立て、制御盤製作などを手がけ、順調に業容を拡大していたアベデンだったが、2009年のリーマンショック後の不況では、受注が激減するという危機に見舞われた。

「会社に出ても時間が余ってしまう。ならば、何か前向きなことをやろうということで、新規事業・新規顧客開拓とあわせてISO 9001の研究を始めました」(安部社長)。

同社は、かつて2000年にISO 9002の認証を取得したが、その後2003年に登録を取り下げた経緯がある。

「ISOブームというべき時期の認証取得でしたが、当時のISOはマニュアル至上主義ともいう時代で、従業員10人程度の事業所には審査に合格するマニュアルを整備する負担が大きすぎました。当社もいわば認証を取得できたことで自信も得られ、当初の目的を達成したという気持ちであり、認証の維持に至らなかったのです」(安部社長)。

数年ぶりに出会うISOは、2000年版、2008年版への改定を経て、初回取得時とは大きく変化していた。「ISOは誰のものですか?審査機関のものでも顧客のものでもないですよ。アベデンさんの現場に役に立つ、利益につながるISOを作ればいいのです」というJQA東北事務所の担当者の言葉に、2000年の取得時にも管理責任者を務めていた本多 茂 安達事業部・太田事業部事業部長は、新鮮な驚きを覚えたという。「そういうものなら自分たちでもできるかも知れない、と思いました」。

折しも新規開拓した顧客先からISO認証についての問い合わせも受けていたこともあり、アベデンは、いかに顧客ニーズに応えるかを基本に、自社の現場に即した品質マネジメントシステムを自力で構築し、2010年6月に認証を取得した。そして冒頭に紹介したように、ISOを経営目標達成のためのツールとして運用する取り組みを進めている。

安達事業部、太田事業部 事業部長 本多 茂 氏 安達事業部、太田事業部 事業部長
本多 茂氏
本社 品質・技術 課長 佐藤 克紀 氏 本社 品質・技術 課長
佐藤 克紀氏

福島から「元気」を発信する

国内製造業の空洞化が進むなか、ニッチな市場で生き残っていくためには、品質、納期、コストはもちろん、提案力やサービスにおいてもお客さまの信頼を得、選ばれる会社となる必要がある。

「そのために必要なことは、アベデンの製造スタイルを、独自のノウハウが詰まった他社がまねできないものにしていくことです」(安部社長)。

そこで最も重視されるのが、社員のスキルアップだ。社員一人ひとりが担当の工程での熟練度を高めるだけでなく、複数の仕事をこなせる多能工になることで、顧客先の要望にさらに応えやすくなる。新人社員の教育期間も従来より大幅に短縮することが求められる。

こうしたなか、アベデンでは各種セミナーや外部教育機関による教育訓練に従業員を積極的に参加させて、「現場気づき力」をやしない日々、カイゼン改革に取り組んでいる。

「当社のように特注品主体の事業を続けていると、外部との交流がどうしても少なくなってきます。外部のフレッシュな視点に触れることは、社内意識のマンネリ化を防ぐうえでも大切です。その点ではJQAの審査を受けることもわれわれには非常に重要なことです。審査の際のちょっとした一言が気づきを与えてくれることが多々あります。審査員には日本の中小企業の製造現場について、もっと知見を広めてもらい、より的確な指摘を期待します」(安部社長)。

外部の視点を採り入れ、ものづくり力の高度化を目指す

東日本大震災が発生した2011年3月11日、折しもアベデンでは、太田事業所の開設日とし、本社工場で行っていたワイヤハーネス製造を太田事業所で始動する日だった。幸い、工場施設に大きな被害はなかったが、その後の燃料不足や交通機関、物流、通信手段の途絶などにより、製造がほぼ順調に戻るまでには、約1ヵ月を要した。

二本松市は原発近隣の市町村からの避難者も受け入れており、安部社長はじめ社員の多くがボランティア活動を行った。

「原発事故により福島はまだ暗い状況が続いています。当社は「ものづくり力」にさらに磨きをかけて、小さいながらも福島の元気の源になれるような会社を目指したいと思います」。安部社長は、そう締めくくった。

太田事業所 太田事業所

株式会社 アベデンの概要

所在地 福島県二本松市
設 立 1989年12月(創業:1975年10月)
業務内容 ワイヤハーネス加工、FA機械組立及び配線、制御盤製作、ホームページ制作
ISO 9001初回登録 2010年6月

同社のホームページ制作事業はリーマンショック後の新規事業としてスタートした。いまでは、地元企業や商工会など幅広い制作実績を重ねるとともに、同社の対外ネットワーク形成にも一役買っている。