情報誌 ISO NETWORK Vol.26

ISO 29990認証取得事例 人材評価サービスにおける差別化と同時に業務改善にも踏み出す

「ヒューマンアセスメント」という人材評価手法を1970年代に日本に持ち込んだ業界のパイオニアである人材開発コンサルティング会社、株式会社マネジメントサービスセンター。同社では2013年2月、サービスの質の保証と向上を目指す学習サービスマネジメントシステムISO 29990の認証を取得した。代表取締役社長の藤原浩氏に、ISO 29990導入のねらいと効果、今後の展望をうかがった。

業界のパイオニアとしての優位性をISO 29990認証で強化する

株式会社マネジメントサービスセンター(以下、MSC)の設立は1966年9月にさかのぼる。創業者はその後、1973年に米国生まれの人材評価手法を導入し、国内向けにカスタマイズして「ヒューマンアセスメント」と名づけた。

MSCは、以来40年にわたり延べ60万人を超えるマネージャー/リーダーの昇進昇格や能力開発に向けた診断・育成の実績を有し、人材開発コンサルティングを通して顧客である企業/団体の人的資源の育成と活用をサポートしてきた。

そのMSCは2013年2月、人材アセスメントサービスを対象に、学習サービスマネジメントシステムISO 29990の認証を取得した。

ISO 29990の認証を得たねらいは、どこにあるのか。代表取締役社長の藤原浩氏は語る。

「当社は人材アセスメントサービスの先駆者として業界で優位性を持っていると自負しています。そこを、引き続き強化することがねらいです。一方で、この業界は参入障壁が低く、サービスの品質が担保されにくいという現状があります。業界の信頼度が下がらないように、品質のさらなる向上を図るねらいもあります」

「ひとづくり」に関わる事業は「ものづくり」と違って、必ずしも大きな投資が伴うわけではない。それだけに事業にも参入しやすく、顧客にとって玉石混交という現実の中、ISO 29990の第三者認証を自社サービスの差別化の手段として打ち出そうというのである。

ただ、差別化を図ることで、人材アセスメント業界での現在の地位を守ろうというわけではない。サービスのさらなる品質向上を目指して、業務改善に取り組もうとのねらいも併せ持つ。

具体的な取り組みとして想定するのは、見える化を通じた業務の標準化である。藤原社長は強調する。

「人材アセスメントサービスは経験知が個人個人に溜まりがちですが、社内の人材の流動化を考えると、それでは困ります。見える化を通じて業務を標準化し、ノウハウを会社のものとして維持していく努力が欠かせません」

業務改善としては、顧客ニーズの変化に対応したサービスの改善も想定する。「ビジネス環境が変わって、マネージャーの役割も以前に比べて変化しています。その中で適切な人材をスクリーニングするための材料が求められるようになっています。お客さまの反応を確かめながらPDCAサイクルを回す中で、演習やディメンションの内容を見直していく必要があります」(藤原社長)。

MSCヒューマンアセスメントとは 個人の能力や資質が目標職務においてどのように発揮されるかを、多面的・客観的に評価する技法です。通常、2日〜3日間の集合研修スタイルで行い、研修期間中に観察された参加者の言動を評価の対象とします。参加者は、さまざまな演習課題を通じ目標職務を疑似体験することができ、自分自身の能力について大きな気づきを得ることに繋がります。

初めての認証取得に戸惑いも 法令対応に品質確保を再認識

ISO 29990の認証を名実ともに生かそうとのねらいのもと、認証取得に向けた準備に入ったのが、2012年4月。会社として初めてのISOへの取り組みだったこともあって、要求事項を満足させることに対する負担感は当初重かったという。ところが、時間の経過とともに取り組み方がのみ込めるようになると、それは和らいでいく。

「人材アセスメント業界初の取り組みであり、システム構築の事例がなかったので、当初は不安に駆られました。しかし理解が深まるにつれ、いまの業務の進め方を文書化し記録していくこと、そして品質向上に向け社員の意識を高めることが取り組むべき方向性としてはっきりし、もうひと踏ん張りしようとの気持ちが生まれてきました」と藤原社長。

顧客のもとに出向いてアセスメントサービスを実施するというビジネススタイルゆえ、あらためて気づかされたり対応に戸惑ったりする点もあったという。

一つは、法的要求事項への対応である。例えば、MSCは顧客の研修施設に出向き、そこでアセスメントサービスの運営をすべて任されることがある。その際、研修施設が建築基準法や消防法など法令に基づき適切な状態にあるかということを、学習サービスを提供する側としても確認する必要があることに気づかされたという。藤原社長は「これまで気づかなかった視点からの品質確保を、あらためて認識することができました」と振り返る。

もう一つ対応に戸惑ったのは、要求事項の中にある利害関係者へのモニタリングである。要求事項では、学習サービスが正しく実施されているか検証することを求めているが、顧客のもとでサービスを提供するMSCの場合、どの程度までチェックすることが適切なのか判断がつかなかった。検討を進める中で、「MSCの品質の維持・改善こそがモニタリングの主眼である」ということに気づき、すべてをチェックしようとするのではなく、自分たちが目指すサービスの質を実現するために必要な部分を対象にすればよいという結論に至った。これにより、無理のないモニタリング方法を構築することができたという。

見える化による業務の標準化 社内の人材育成に役立たせる

ISO 29990の認証を取得してからどのような効果が上がっているのか。藤原社長は「お客さまにもご評価いただく中で、受注に結びつく案件も出てくるようになりました。細かく説明しなくても、一定の品質を持っていることが理解していただきやすくなった―それが何よりのメリットです」と、満足そうな表情を見せる。

ねらいとしてあげていた業務の標準化という視点ではどうか。藤原社長は「第一歩は踏み出せた」とみる。「私たちはお客さまのもとで業務に当たっているので、どうしても個人個人のやり方が介在する余地がありましたが、文書化・記録化による見える化で共通の認識が生まれるようになってきました。業務の内容がはっきりしたことは、人材アセスメントサービスの設計を担うアドミニストレーターのような重要な人材の育成という観点からも意義あることと考えています」(藤原社長)。

スケジュール

顧客ニーズの変化に対応したサービスの改善という視点ではどうか。「これまでは2泊3日や1泊2日の日程で参加者を1ヵ所に集めてアセスメント業務に取り組んできました。しかし、お客さまの会社にとって重要な人材を、2、3日とはいえ拘束することが難しくなってきています。お客さまの状況に応じて見直しを考える必要があります」と藤原社長。品質を維持しながら、スピードアップやコストダウンを求める顧客の声に応える必要性も感じているという。

グローバル化に伴って、ビジネス環境の変化は加速している。いきおい、企業のマネージャーやリーダーに求められる資質も変わっていく。企業の人材開発を担う学習サービスの提供者として変化に追いついていくには、これまで以上に顧客の声に耳を傾け、自ら変化を先取りする企業姿勢と、環境変化に迅速に対応できる人材の育成が不可欠だ。MSCはISO 29990を活用することによって、サービス品質の継続的な改善に取り組み、業界におけるサービスの優位性をさらに高めたいと考えている。

取締役 コンサルタント統括部長地引 勝美氏・ISO運用室 室長高梨 義行氏・マネジメントサポート室 室長和多 美保氏

株式会社マネジメントサービスセンターの概要

所在地 本社/東京都渋谷区代々木 営業所/東京、大阪、名古屋、福岡、札幌

MSC

設 立 1966年9月
資本金 1億円(MSCグループ)
従業員数 正社員/176名( うちコンサルタント79名)契約コンサルタント/136名
業務内容 アセスメントシステム、ディメンション/コンピテンシー、オーガニゼーション、コンサルティング、トレーニング&デベロップメント
ISO 29990認証取得 2013年2月