株式会社みつばコミュニティは、首都圏において幼稚園や保育園の送迎バスをはじめ、福祉施設、病院、スポーツクラブ、企業などのお客さまが保有する450台の車両の運行および運行管理を請け負っている。同社は、550名のサービスクルー(ドライバー)の安全運転技術や運転マナー向上を図り、お客さまや地域社会からの信頼を獲得することを目的にISO39001の認証を取得した。その効果や今後の展開について、代表取締役社長の大隈 太嘉志氏にうかがった。
事業のなかで道路交通安全の占める位置づけをお聞かせください。
お客さまの施設の看板を掲げて運行しているので、自社車両とは異なった配慮が必要になります。
当社は車両運行および運行管理のプロフェッショナルとして送迎バス等の運行に携わっています。乗車されるのはお客さまのお客さまであり、幼稚園児や医療・福祉施設来訪者なども多いので、走行中の安全配慮は何よりも重要です。特に幼稚園バスについては創業時から運行を行っていますが、着席している園児が停車時に前のめりに転んでしまわないように、ブレーキングに気配りするなどの教育などを重視してきました。また、お客さまの名前を掲げて運行するため、地域の方々への責任の大きさも認識しています。地域の方々は、当社が運行を委託されていることをご存じないですから、当社に対する評価がそのままお客さまへの評価につながります。
これまでの交通安全対策はどのようなものでしょうか。
サービスクルーの品質向上を第一に取り組んできました。
当社のサービスの品質は、運行を担当するサービスクルーの運転技術やマナーの品質にかかっています。当社には、自動車教習所の指導員資格をもったインストラクターが複数名おり、彼らが面接を行い、運転技術やマナーのチェックを行ったうえでサービスクルーの採用を決定します。また、木の枝でこすったなど、自社車両なら修理をしなくてもいいようなケースでも、しっかりと報告を上げさせるようにしています。再発防止に向けてインストラクターとサービスクルーが一緒に考えて改善をしていく仕組みも構築しています。
日々の運行については、地域ごとの運行管理アドバイザーが、ルール通りに運行しているかや、日報の記載内容などについて確認をしています。12名の運行管理アドバイザーが、それぞれ30件程度のお客さまを巡回し、サービスクルーの運行管理を行っています。同時に、お客さまからいただいたご指摘やお褒めの言葉をサービスクルーと共有することで、再発防止やモチベーションアップにつなげています。
ISO 39001の認証取得のきっかけ、目的をお聞かせください。
首都圏で信頼度No.1の会社であることをアピールしたいと考えました。
5カ年計画の策定時に、「首都圏No.1の信頼度のある会社」を当社の目指す姿としました。信頼度をアピールするには、自分たちの基準ではなく、きちんとした規格に則ってマネジメントシステムが構築できていることを第三者に審査してもらうことが重要であると考えました。当社のグループ会社がJQAでISO 9001およびISO 14001の認証を取得しており、私たちもISOの効果については理解していましたので、当初はISO 9001の認証取得を検討していました。しかし、新たにISO 39001が発行されることを知り、これこそ当社が目指す姿に合致した規格ではないかと考えました。
ISO 39001認証取得までの流れをお聞かせください。
2012年12月にキックオフし、6月に認証を取得しました。
JQAのセミナーを受講し、ISO 39001の認証が当社の信頼度を証明できるものだと確信したことで、2012年12月末からマネジメントシステムの構築に向けて一気に動き始めました。当社の特殊な業態を理解していただいている損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントにコンサルティングを依頼し、当社の事故データを客観的に見ていただきました。当社RTS担当者とコンサルティング会社は、月に2回程度打ち合わせをし、3月1日からPDCAを回し始めました。当社がそれまで行ってきた安全運転の取り組みに沿ったかたちで、マネジメントシステムを構築することができたと思います。
2012年 | 12月 | キックオフ |
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2013年 | 1月~2月 | 準備期間(文書化など) |
3月~4月 | 運用開始 | |
5月 | ファーストステージ審査 | |
6月 | セカンドステージ審査 | |
6月28日 | 認証・登録証の発行 |
マネジメントシステムの構築・運営体制をご紹介ください。
現場のサービスクルーのチェックを重点的に行えるシステムを構築しました。
当社には、新規のお客さまを開拓するマーケティング部、サービスクルーを管理する管理営業部、事故の対応や研修の企画・実施を行う業務統括部があります。マネジメントシステムの構築にあたっては、これらの部門長3名とRTS責任者、コンサルティング会社で話し合いながら、それぞれの立場でどういうことが必要かを洗い出しました。その結果、現場のサービスクルーを管理する管理営業部を中心に考えていくことに決めました。実際に事故を減らしていくのは現場ですから、サービスクルーのチェックを重点的に行えるシステムの構築を目指したわけです。
RTS方針、RTS目標、RTS詳細目標をお聞かせください。
小さな事故を減らしていくことで、重大事故の発生予防につなげていきます。
リスクや影響を精査することで、RTS詳細目標の策定につなげていきました。特定できたポイントは、軽い接触などのヒューマンエラーが多い、運転時よりも入庫時の後退時に事故が多いということでした。特に2012年度は事故の40%以上が構内の後退時に起きていましたから、これを減らすことに注力することにしました。2013年3月の運用開始以降、昨年同月に比べて事故件数は減っていますし、削減目標もほぼ達成しています。こういった小さな事故やヒヤリハットを減らしていくことが、RTS目標である死亡事故ゼロの維持につながると考えています。
RTS方針
私たちは、自動車管理のプロ集団として、企業倫理や交通法令を遵守し、生涯無事故の精神を貫くために以下の道路交通安全方針を定め、RTSマネジメントシステムの継続的改善を行います。
RTS目標・詳細目標
目標: | 死亡事故 0件の継続 |
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詳細目標: | 物損を含めた全ての事故(当社無過失のものを除く) 月末の管理台数あたり3.4%以内 |
施策: | 新人・再発防止研修 |
詳細目標: | 構内の後退事故 月末の管理台数あたり1.2%以内 |
施策: | 後退時ルールの見直し・徹底、事故情報・ニュースの提供 |
ISO 39001の取り組みで苦労した点や工夫したポイントをあげてください。
当社の業態特性に合わせた詳細目標を設定することで、施策も立てやすくなりました。
究極の目標はもちろん事故件数ゼロですが、目標としての具体性に欠けますし、じつは事故件数で詳細目標を設定するのは難しかったのです。そのひとつの要因として、当社の場合、管理車両が毎月増えているということがあげられます。特に4月の年度替わりに増加し、以降も年度を通して増加していくため、事故件数で詳細目標を設定すると、年度末に向けて目標達成が難しくなっていきます。そこでコンサルティング会社とも話し合い、月末の管理台数を基準に、パーセンテージで詳細目標を設定することにしました。もともと事故の数は捉えていたのですが、パーセンテージで詳細目標を設定したのはISO 39001の認証取得に向けた取り組みを始めてからです。それまでも事故を減らそうというかけ声はあったのですが、実態にあった数値を設定できたことで目標が明確になり、施策も立てやすくなりました。
サービスクルーに道路交通安全の取り組みを定着させる活動をご紹介ください。
社内報やマニュアルの配布、研修などを通して、意識の定着を図っています。
当社のサービスクルーは、社有車のドライバーとは違い、お客さまの現場に直行・直帰が基本となるため、意識の定着に向けた活動を積極的に進める必要がありました。ISO 39001の認証取得に向けた取り組みは、サービスクルーに配布する社内報などで知らせたり、運行管理アドバイザーからも巡回時に伝えたりすることで、全社の動きを共有するようにしました。また事故を減らすための施策として、当社では配属前に行う導入前研修、配属後3カ月後に行う導入後研修、事故を起こしたサービスクルーに対する事故後研修、年1回の全体研修などを実施していますが、これらの研修時にも道路交通安全方針を唱和したり、目標・詳細目標の共有化を図ったりしています。RTS詳細目標としている構内の後退事故についても、しっかり数値目標を掲げることができたので、社内報で毎月の事故件数をオープンにしたり、特徴的な事故事例を取り上げたりすることで、意識の向上を図っています。RTS方針・目標・詳細目標については、まったく新しいものを導入したのではなく、従来から安全運転の理念としていたものをベースに、これまでの取り組みを見える化したものですから、浸透を図るのは難しいことではないと考えています。
ISO 39001導入によって、これまで得た成果をご紹介ください。
お客さまに対してのアピール、そして現場のサービスクルー、両方にメリットがあります。
PDCAを回しながら事故を削減していく具体的な道筋を明らかにできたことは、運行に携わるサービスクルーにとっても大きなメリットになりました。また当社のような業態は、青ナンバーの業種とは異なり、道路交通法以外に規制を受ける法律がないため、新規参入しやすいといった一面もあります。他社との差別化のためにも、ISO 39001のように、お客さまに客観的な判断をしていただける第三者認証を利用することで、信用を獲得することが可能になります。マーケティング部がお話をさせていただくお客さまの意思決定者は、実際には送迎バスには乗車されない園長先生だったりするので、信頼性をしっかりアピールできると考えています。
今後の取り組みの目標や展開をお聞かせください。
今後の取り組みの目標や展開をお聞かせください。
道路交通安全マネジメントシステムは、一度構築してしまえば大丈夫というものではなく、繰り返しPDCAを回していくことが重要だと考えています。繰り返すことでレベルが向上しますから、これからが勝負だと思っています。より高い目標をクリアし、現場の品質が上がることで、多くのお客さまの信頼を得られる強い会社の実現につながると信じています。ISO 39001の認証取得範囲についても、将来的にはPDCAをスパイラルアップし、現場のサービスクルー全員を対象にしていきたいと考えています。
事故はあってはならないものですが、一方で私たちは小さなものとはいえ、さまざまな事故を経験していることも強みです。この経験を共有し、安全のためのノウハウや意識を広げていくことで、お客さまに安全を提供できるようになります。当社がサービスを提供していない幼稚園から、ドライバーの教育を行ってほしいといった声もいただいています。今後は、当社のサービスの品質向上だけでなく、広く社会一般の道路交通安全に寄与していきたいと思っています。
所在地 | 本社 東京都渋谷区 支店 神奈川県川崎市、埼玉県川口市、千葉県習志野市 |
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事業開始 | 1994年 |
事業内容 | 幼稚園・保育園・小学校・スイミングスクール・病院・福祉施設・一般企業などの自家用送迎バス・車両の運行管理業務生命保険・損害保険の代理店業務 |
車両数 | 取引台数450台 |
従業員 | 550名 |
登 録 | 2013年6月(JQA-RT0017) |
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登録活動範囲 |
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