OEC株式会社様

生成AIの活用により、システム開発工数削減と競争力向上を実現

OEC株式会社
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生成AIの進化を競争力向上の機会と捉え、開発現場での活用に挑んだSIer(システムインテグレーター)、OEC株式会社。開発工数の大幅な削減に加え、営業活動にも新たな変化が生まれています。技術革新が加速するなか、マネジメントシステムを軸に、変化に柔軟に対応する同社の取り組みについて、技術推進本部 部長の田尻 忠俊さんに伺いました。

  • [ 課題 ]

    生成AIの普及による開発手法の変化に対応し、競争力を維持する一方、情報漏洩などのリスクへの対応も不可欠。

  • [ 対策 ]

    AIツールの選定・検証を進め、複数のツールを使い分けることで環境変化に対応。生成AI利用のガイドラインも策定。

  • [ 成果 ]

    システム開発の工数を最大約74%削減。営業活動にも生成AIを活用することで、提案力の向上にも期待が寄せられる。

【The Issue - 現状と課題】
急速な技術革新への危機感と新たなリスク

―――まず、貴社の事業概要と、マネジメントシステム認証取得の背景について教えてください。

当社は岡山県を拠点とするシステムインテグレーターです。親会社である天満屋百貨店の関連業務をはじめ、全国の自治体、医療機関、民間企業などに向けて、パッケージシステムの提供やデータセンターの運用、セキュリティ事業など、幅広いICTソリューションを展開しています。

マネジメントシステムについては、ISO 9001(品質)やISO/IEC 27001(情報セキュリティ)などの認証を取得しています。認証取得の契機となったのは、自治体の入札要件やサプライチェーンにおける外部からの要請でした。その後、長年にわたって運用を続けるなかで、マネジメントシステムの考え方が現場の業務にも浸透してきていると感じています。

―――今回、生成AIの活用に取り組まれた背景には、どのような課題があったのでしょうか。

2022年以降、ChatGPTをはじめとする生成AI技術が急速に発展し、IT業界では、これまで人間が担ってきたプログラミングの領域にもAIが活用されるなど、システム開発のあり方が大きく変わり始めていました。当社のような企業にとって、この変化に乗り遅れることは競争力の低下につながり、ひいては事業の存続にもかかわるという強い危機感がありました。

一方で、生成AIの活用にはさまざまなリスクも伴います。海外製のAIツールを利用するにあたっては、データがどこで管理されるのか、機密情報を入力することで情報漏洩につながる可能性はないかなど、情報管理上のリスクを慎重に検証する必要がありました。先進的な技術を積極的に取り入れると同時に、安心して活用するためのルールを整備することも、重要な課題となったのです。

【The Work - 対策と実践】
AIツールの選定・検証と環境変化への対応

―――具体的には、どのようなプロセスで進められたのでしょうか。

私が所属する「技術推進グループ」は、ISOをはじめとするマネジメントシステムの運用を担う「品質管理チーム」と、先端技術の活用を牽引する「新ソリューション開発チーム」で構成されています。今回の取り組みでは、新ソリューション開発チームが中心となり、他部署に先駆けて検証を進めました。チームのSE3名がAIツールの検証を担当し、私が全体の取りまとめや経営層への報告、ルール整備を担う形で役割分担を行いました。

まずはAIツールの選定基準を設定し、その基準を満たすツールを実際に使って検証しながら候補を絞り込みました。その際、ツールの機能やセキュリティ面に加え、提供元企業の背景やデータセンターの所在地なども確認しました。こうして選定したツールを用いて、各事業部から寄せられた「こんな仕組みやツールが欲しい」という要望をもとにPoC(概念実証)システムを作成。実際の業務における有効性を評価し、開発にかかる工数を測定しました。

―――取り組みの過程で直面した壁は、どのようなことでしたか。また、それをどのように乗り越えられたのでしょうか。

最も苦労したのは、生成AIをめぐる技術の進化の速さと、外部環境の変化です。生成AIは、数日単位で優位性が入れ替わったり、提供元企業の買収や仕様変更によって、それまで使っていたツールが突然利用できなくなったりするリスクもあります。そのため、特定のツールだけに依存せず、複数のツールを使い分けることで、環境の変化に柔軟に対応できるようリスクヘッジを図りました。

また、本格的な測定に入る前に、バイブコーディング(自然言語による指示でシステム全体を自動構築する技術)を試験的に導入し、生成AIの特性をあらかじめ把握できていたことも成功につながった要因の一つです。加えて、SEが上流工程の設計能力を備えていたため、システム全体を俯瞰しながらAIに指示を出せたことも、開発を後押しすることにつながりました。

【The Next - 成果と展望】
開発工数を最大74%削減、新たな営業提案も

―――具体的に、どのような成果が得られましたか。

今回は3つの案件を対象に効果測定を行いましたが、そのすべてにおいて、システム開発工数の削減を達成することができました。

  1. 自治体クロールツール

    (自治体の予算情報から営業提案の機会を探すツール)
    予定工数:85人日 → 実績29人日(約66%削減)

    自治体のWEBサイトから予算情報を収集し、予算措置の内容を確認する。

  2. SFA可視化ツール

    (営業日報から必要なデータを抽出するツール)
    予定工数:75人日 → 実績19.5人日(約74%削減)

    グループウエアやSFAの情報を収集して可視化し、営業活動を見える化する。

  3. 院内チャットツール

    (病院内で安全に利用できるチャットツール)
    予定工数:132人日 → 実績42人日(約68%削減)

    病院などのクローズドな環境での利用を想定した、
    オンプレミス型(院内サーバーで運用)のチャットシステム。

工数削減という定量的な成果だけでなく、営業面における定性的な変化も大きな成果だと感じています。以前は、お客さまの要望に対して「動かないイメージ画像」で説明する程度にとどまっていましたが、生成AIを活用することで、「動く試作品を作って提示できる」という発想を営業担当が持てるようになりました。訪問前にAIを活用して市場調査を行うなど、営業活動そのものも、これまでとは異なるスタイルへと変わりつつあります。

―――生成AIの導入によって、従来のマネジメントシステムにも新たな課題が見えてきたそうですね。

大きな課題は、プログラムのレビューや承認プロセスのあり方です。AIが短期間で大量のコードを生成できる一方、人間がそのすべてを従来どおり確認することは物理的に難しくなっています。「AIによるレビューをマネジメント上の正式なプロセスとして認めるべきか」「人間が介在していない成果物を承認してよいのか」など、新たな論点が生まれています。

また、これまでは設計書を原本としていましたが、AI時代においてはソースコード自体を原本とし、設計書は一時的なメモとする考え方も出ています。AIの進化に合わせてマネジメントの運用プロセスをどう見直していくか、議論を進めているところです。

―――今回の成果を、今後どのように展開したいと考えていますか。

今後は、開発だけでなく営業を含む全業務へのAI活用、そして最終的には、システムの改修や機能追加まで含めた「完全自動化」を目指しています。ただ、事業の核となる業務へ拡大するためには、AIの暴走を防ぐ「ハーネス」の整備が不可欠です。AIに入力してはいけない情報を明確にすること、人間が責任を持って承認すること、AIが動作した際には監査ログを残すことなど、生成AIを活用した開発のガイドラインを策定しています。ただ、マネジメントの仕組みを検討している間にも、技術がさらに先へ進んでしまう可能性もあるため、ISO 42001(AIマネジメントシステム)などの規格について情報収集を進めながら、5年後、10年後を見据えたマネジメントのあり方を描いていく必要があると考えています。

変化の時代を支えるマネジメントシステムの「軸」

―――最後に、マネジメントシステム認証を活用する意義についてお聞かせください。

マネジメントシステムは、長く運用しているとルーチン化し、「なぜこの手順を踏むのか」という本来の意味を見失いがちです。だからこそ、外部審査を通じて、改めてその意味を考える機会が得られることは、大きな意義だと感じています。

JQAの審査員の方々との対話から、新たな気づきを得ることも少なくありません。例えば、顧客満足度については、アンケート結果だけでなく、リピート率や再販率といった別の指標から捉える視点を示していただきました。また、外部の目に触れることで、日々の業務に適度な緊張感が生まれることも、審査を受けるメリットだと思います。

さらに重要なのは、マネジメントに関する考え方を一本化できる点です。組織全体でベクトルを合わせることで、トップが注視すべきポイントが明確になり、社員が異動した際も、評価の観点などが変わらないため、業務上のロスや工数の削減につながります。

社内だけで判断していると、どうしても自分たちに都合のよい解釈が増え、「物差し」が短くなりがちです。だからこそ、「世の中の標準」に照らして自社を客観的に測る姿勢が不可欠です。これはAI活用においても同様です。常に世の中の技術レベルを見据えながら、自社の立ち位置を把握する。マネジメントシステムという軸があるからこそ、激しい変化のなかでも、自分たちの判断だけに頼ることなく、守るべき品質や責任を見失わずにいられます。仕事の進め方が大きく変わろうとしている今だからこそ、こうした軸を持ち続けることが一層重要になると確信しています。