情報誌 ISO NETWORK Vol.25

平川 雄典氏
Q&A
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ISOコンサル会社としてISO 22301認証を取得された経緯についてお聞かせください。
2010年に創立10周年を迎えるにあたって、アイソ・ラボにしかできないコンサル・メニューを用意したいと考えました。そこで選んだのが、国際的なBCMSのデファクトスタンダードBS 25999だったのです。東京・大阪・名古屋のパートナー・コンサルタントに集まってもらい規格の研究を進め、規格の解説書、サンプル・マニュアル、サンプル様式を整えました。しかし、認証取得を目指される対象コンサルティング先がすぐにはなかったので、蓄積したノウハウを生かすためにも我々自身が認証を取得することにしました。2010年2月にBS 25999、そして2012年9月にISO 22301認証を取得しました。
当社のBCMSは、ISOコンサルタントとしてサービスを滞りなく提供し、お客さまとの約束を果たすことに主眼を置いています。ご希望のISO認証取得時期に合わせてコンサルティングを進めますが、一方、コンサルタントも人間ですから、病気をすることもあれば、自然災害や交通事故で行けないこともあります。コンサルタント個人に依存しすぎず、会社としてサービスを継続するために、代わりのコンサルタントを派遣するだけでなく、お客さまのシステム構築の進捗状況等をスムーズに引き継げるような備えをしています。また、コンサルタントが情報を蓄積したパソコンが万一使えなくなった場合のデータの復旧なども重要です。当社ではバックアップ用のパソコンを用意するのではなく、ソフトウェアやデータをインストールし直すための手順書を整備しています。大企業ならば、予備のパソコンをいつでも使えるようにしておくことも可能かもしれませんが、我々はお金よりも知恵と工夫でカバーしようと考えています。BCMSは、企業規模によって取り組みも違ってきますが、我々のような小さい会社にもやるべきことはありますし、大きいところには、もっとあると思います。
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BCMSがクローズアップされているのには、どのような時代背景があるのでしょうか。
東日本大震災やタイの洪水では、サプライチェーンのどこかに問題が発生すると、全体に影響を与えることが明らかになりました。一つの会社の問題が、玉突きのように、いろいろなところに波及するのです。自分の会社の製品だけでなく、サプライヤーが被災したらどうなるのか、また、次のお客さまにどういう影響が出るのか、自分の会社さえ大丈夫なら良いという時代ではないことを、頭に置かなくてはならないと思います。
こういった時代背景の中で考えると、ISO 22301のアピールポイントは、「自然災害などで工場が止まったとしても、私たちは復旧の準備を整えていますから、ご安心ください」ということになります。今までの企業は、いい製品を作って喜んでいただくことを追求してきたかもしれませんが、これからは、事業継続の体制を整備していることが、新たな企業価値を生むのだと思います。
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100年に一度あるかないかということにお金をかけるのか、という議論もありますが。
当社も大地震を想定してBCMSを構築しましたが、これまでの3年間に建物が壊れるような地震はありませんでした。しかし、BCMSが生きていないかというと決してそうではありません。パソコンを復旧させるために作ったインストール手順書は、実際にパソコンが壊れたときに役立ちました。地震やインフルエンザが発生しなくても、交通機関や通信網の障害など、現実には災害時と同じような事態が起こることがしばしばあります。構築したBCMSは、ビジネスのさまざまな場面で生かせることを実感しています。
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第三者審査は、どのように役立ちましたか。
第三者に見てもらうことによる、気づきは大きかったと思います。ISO 22301というと、非常に大きな仕組みを作らなくてはならないイメージがありますが、じつは自分たちの身近なところが大事だという認識が生まれました。例えば、地震発生時には、2階の事務所から梯子で降りる想定をしていましたが、「女性の方も本当に降りられるのですか」と指摘され、それは難しいことに気づきました。机上で考えているだけでは、気づかないものです。男性、女性、若者、高齢者、我々のようなコンサルタント、審査員、いろいろな視点で議論した方がいいことを、審査を受けて実感しました。
同様に演習の重要性も実感しています。例えば、当社の事業継続計画書には、負傷者が出たら担架で運ぶと定めていますが、実際に試してみたら、階段が急で担架では運べないということがありました。また、安否確認のための連絡網を作っていますが、実際に演習してみると具体的に何をどのように確認していくか戸惑うこともありました。緊急時にはパニックになることもありえますから、訓練の中で一人ひとりが体で覚え、反射的に反応できるように企業文化に組み込むことが必要です。BCPを作るだけでなく実際に使えるものにするためには、演習や第三者審査を含め、検証や改善を継続的に進めていくことが非常に有効です。転ばぬ先の杖という言葉がありますが、ちゃんと使える杖があれば、何かあったときに安心感がありますよね。
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ISO 9001やISO 14001認証を取得している企業が、新たにISO 22301認証を取得するメリットは何でしょうか。
ISO 22301を生かせる部分はたくさんあります。一つには、規格の要求の半分以上が、今後発行される国際規格で共通化され、ISO 22301の章立てと同じになります。つまり、今取り組んでおけば新規格の取得や改訂版移行の際にも役に立つことになります。また、ISO 9001やISO 14001に取り組んでいる組織にとっては、現状の仕組みが自分たちに合っているのかを見直す良い機会になると思います。
ISO 9001は良い製品やサービスを提供することにより顧客満足の向上を目指すものですが、BCMSは、甚大な災害が発生してもお客さまとの約束を果たせるように備えるという点では究極の顧客満足に寄与するものです。そうしてみれば、事業継続もある種の品質の一部だということが分かります。
ISO 14001では、環境に関連した緊急事態を想定して対策しますが、ISO 22301では、事業や業務を中断するような緊急事態を想定して対策することになります。
このことは、自社だけでなく、自社のお客さま、お客さまのお客さま、最終段階の消費者にとっても、リスクの低減につながることになります。そのような取り組みを行うことで、企業の社会的責任や信頼性向上に役に立つということが大きなメリットといえると思います。
このように事業継続の視点で全体を見つめ直すことで、品質活動や環境活動の改善やレベルアップにつながると思います。
アイソ・ラボ株式会社の概要
所在地 | 福岡県小郡市寺福童426 |
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設 立 | 2002年2月 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 25人(パートナーコンサルタントを含む) |
業務内容 |
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ISO 22301認証取得 | 2012年9月 |