情報誌 ISO NETWORK Vol.22

[規格情報]FSSC 22000(食品安全マネジメントシステム)

ISO 22000の要求事項を主にハード面から補強

日本コカ・コーラ社が日本のサプライチェーン各社に対して、食品安全マネジメントシステムの標準規格になりつつあるFSSC 22000の認証取得を要請しました。日本で同規格に対する関心が急速に高まりつつあるいま、どのような背景のもとで生まれ、どのような規格なのか、あらましをご紹介します。

FSSC 22000とは、オランダに本部を置くFFSC(Foundation for Food Safety Certification)がスキームオーナーとなり、食品安全マネジメントシステムの国際規格としてよく知られているISO 22000の要求事項を、PAS 220(ISO/TS 22002-1)と呼ばれるBSI(英国規格協会)規格で補強したものです。2010年2月、国際的な食品・消費財関連企業のネットワークであるCGF(The Consumer Goods Forum)の下部組織、GFSI(Global Food Safety Initiative)が、ベンチマーク規格の一つとして承認しました。国際分業が進むなか、食品安全に関する世界的な枠組みをつくることで、コスト効率の高い安全確保の実現を図る狙いです。

注目を浴びるようになった直接の引き金は、日本コカ・コーラ社が傘下の7つのボトリング工場でFSSC 22000の認証を取得したのに続き、国内のサプライチェーン各社に対してもこの認証取得を要請したことです。国内150社以上と見られる取引先が、認証を取得し取引を継続するか、認証を取得しない代わりに取引を断念するか、決断を迫られています。

さらに、こうした要請は今後CGFの会員として名を連ねる食品・流通各社に広がっていく、と予想されます。

CGF会員企業は70ヵ国・約650社に上ります。具体的には、米マクドナルドや日本では西友を傘下に収める米ウォルマートなど、米コカ・コーラと同様に日本になじみ深い世界的食品関係会社や流通企業、イオンなどの国内流通企業、……といった顔ぶれです。これらの企業が取引関係にあるサプライチェーン各社に対して、FSSC 22000の認証を取得するよう要請する時期が来ないとも限りません。

年内には包装材料メーカーも

では、FSSC 22000とは、どのような規格なのでしょうか。適用対象範囲からまず見ていきましょう。

取り扱う製品分野は、①ハム・ソーセージ、乳製品、卵など動物生鮮品②果物や野菜のジュース類など植物生鮮品③缶詰めや砂糖など常温保存品④添加物やビタミンなど

化学製品の4つのカテゴリーで加工食品メーカーと化学製品メーカーが適用対象になります。年内には、この4カテゴリーに加え包装材料も適用対象となる見通しです。

冒頭説明したように、FSSC 22000は食品安全マネジメントシステムの徹底という観点から、ISO 22000の要求事項を補強したものです。「安全な製品の計画及び実現」という項目の一つに位置付けられている「前提条件プログラム(PRP)」の部分をPAS 220によって詳細に定めるような形で、主にハード面の要求事項を加えています。

PAS 220の特徴的な要求事項としては、次のようなものが挙げられます。

一つは、「建物の構造と配置」「施設及び作業区域の配置」といったハードに関する要求事項です。例えば「内部の設計、配置及び動線」という項目では、「建物は、材料、製品及び要員の合理的な流れ、並びに加工区域から原料の物理的な隔離を伴う、十分な空間を提供しなければならない」「材料の搬送のための開放は、異物と有害生物の侵入を最小限にするように設計されなければならない」と定めています。

工場内で2つに切り分けたい区画をこれまでは、吊り下げたビニールシートで仕切るとか、床面にビニールテープを張って区切るなど、空間の使い方つまりソフト面の工夫で食品安全の確保を図ってきた企業もあろうかと思います。PAS 220ではそうした2つに切り分ける必要のある区画は物理的に確実に区切るというように、ハード面の対応を求めています。

工場内では空気や水の清潔性を確保する観点から、PAS 220ではそこで使用する機器にも要求事項を設けています。例えばフォークリフトには、排気ガスで空気を汚すガソリンやディーゼルといったエンジン式のものではなく、ガスを排出しない電気式のものを利用するよう求めています。このほか、空気や水に直接的には影響を及ぼしませんが、コンプレッサーにはオイルフリーのものを、グリースには食品用のものを使うよう求めています。

もう一つは、「要員の衛生及び従業員のための施設」という工場で働く従業員に関する要求事項です。例えば「作業着及び保護着」という項目では、ポケットから異物が落下する恐れをなくす観点から、「作業着はウエスト・レベルより上に外付けのポケットが付いていてはならない」と定めています。

誤って異物を落としてしまう場合はもちろん、ここでは故意に異物を落とす場合も視野に入れています。例えば会社に何らかの不満をもつ従業員が、悪意をもって作業着のポケットに劇物をしのばせて、製造中の製品内に故意に落とすような場合もないとは限りません。中国製冷凍ギョーザ事件のような故意の異物混入にも、PAS 220では歯止めをかけるような対策を求めています。

認証取得で製品事故の抑制に

PAS 220にはこのように詳細な要求事項が定められているわけですが、一方でISO 22000で求められるハザード分析によって食品安全に影響のないことが確認された場合、適用除外が認められています。

なお、ISOにはPAS 220と同様の規格として、ISO/TS 22002-1が定められています。FFSCではこれを、PAS 220と同等であるということを受け入れると決めています。つまり、PAS 220の代わりにISO/TS 22002-1を用いることもできるわけです。

適用対象範囲である加工食品メーカーや化学製品メーカーがFSSC 22000の認証を取得する意義は、どこにあるのでしょうか。最大のメリットは、リスクマネジメントの徹底で製品事故の発生を抑えることができるという点です。

FSSC 22000では、例えば「アレルゲンの管理」を要求事項として掲げています。ここでは、管理すべきアレルゲン7品目と管理を推奨する18品目の計25品目を明示したうえで、製造ライン上で扱う製品を切り替える場合、直前にライン上で使用していたアレルゲンをどのように洗浄するか、それが洗い落とされているか否かをどう確認するか、という点まで定めています。

FSSC 22000の認証を取得するということは、こうした要求事項への対応を通じて、製品に対するアレルゲンの混入という予期しない事故を確実に防ぐことができます。頭ではわかっていても現場にまで確実に浸透させるのが難しいリスクマネジメントの徹底を、認証取得は後押ししてくれます。

FSSC 22000の認証を取得する場合、ISO 22000の認証を取得している企業であれば、追加対応はPAS 220(ISO/TS 22002-1)に関する部分だけで済みます。FSSC 22000の認証取得に向けてどの程度の追加対応が必要なのか等、ご不明な点がございましたらお気軽に下記までお問い合わせください。