情報誌 ISO NETWORK Vol.22

[規格情報]ISO 50001(エネルギーマネジメントシステム)

DISからFDISへの変更点

ISO 50001

2011年3月エネルギーマネジメントシステムの国際規格であるISO 50001のFDIS(最終国際規格案)が発行されました。以下にDISからFDISに改訂された際の主要な変更点についてご紹介します。なお、IS発行は2011年8月を予定しています。

FDIS(JQA訳) 変更内容
1. 適用
この規格は、その宣言したエネルギー方針に適合することを確実にし、その適合を第三者に示すことを望むあらゆる組織に適用可能である。
これは、自己評価と自己適合宣言によって、或いは、外部組織によるエネルギーマネジメントシステム(以下、EnMS)の認証によって確認される。
自己宣言および第三者認証に活用できることを追加
3.5 エネルギー
電気、燃料、蒸気、熱、圧縮空気及びその他類似の媒体。
DISでは一次、二次エネルギーに限定していたがそれをFDISでは削除した
3.13 エネルギーパフォーマンス指標(以下、EnPls)
注記 EnPIsは単純な数値、比、又はより複雑なモデルとして表現できる。
注記を追加
3.26 適用範囲
注記 適用範囲は輸送に関係するエネルギーを含むことができる
適用範囲に輸送関連で使用されるエネルギーを組み込んでもよい事を明確化
4.2.1 トップマネジメント
h) 長期(事業)計画立案の中でエネルギーパフォーマンスを考慮する
長期計画とパフォーマンスのリンクを明確化
4.2.2 管理責任者
h) 組織の全ての階層でエネルギー方針及び目的に対する自覚を鼓舞する
職責に組織構成員の自覚プロモーションを追加
4.4.2 法的要求事項及びその他の要求事項
法的要求事項及びその他の要求事項は、定められた間隔で見直されなければならない
定期的なレビューを要求事項として追加
4.4.3 エネルギーレビュー
将来のエネルギー使用及び消費を推計する
推計のタイミングを著しいエネルギー使用確定後に変更
4.4.5 エネルギーパフォーマンス指標
EnPIsは適切ならば、レビューし、エネルギーベースラインと比較しなければならない
全ての組織への要求でなく必要とする組織のみに緩和
4.5.3 コミュニケーション
組織は、組織で働く又は組織のために働く全ての要員がEnMSに関してコメント又は提案することを可能にするプロセスを確立し、実施しなければならない
組織は、エネルギー方針、EnMS及びエネルギーパフォーマンスに関する外部コミュニケーションを行うかどうかを決定し、その決定を文書化しなければならない。
提案制度の確立と実施を要求事項として明確化
エネルギー方針の開示を外部開示情報の一部として、組織の判断で実施する要求事項として追加
4.5.7 エネルギーサービス、製品、機器及びエネルギー調達 調達業務の要求を統合して一本化
4.6.1 監視、測定及び分析
e) エネルギー消費に関する予測と実績値の評価
組織の規模及び複雑さ並びに監視と測定機器に応じた適切なエネルギー測定計画を明確にし、実施しなければならない。
鍵となる特性について表現を明確化すると共に左記項目を追加
監視測定計画の作成と実効を要求事項として追加
4.6.3 EnMSの内部監査
−策定されたエネルギー目的及び目標にそっているか
−効果的に実施され維持されエネルギーパフォーマンスを改善しているか
内部監査の目的を明確化

ISO 31000(リスクマネジメント)

ISO 31000はリスクマネジメントに関するガイドラインで、2009年11月にISが発行され、2010年9月にJIS化されました。緊急事態や事業継続の分野は対象外としていますが、あらゆる組織が直面するリスクを管理するための汎用的なプロセス(図2)と、そのプロセスを効果的に運用するための枠組み(図1)が示されています。

「指令及びコミットメント」は「リスクを管理するための枠組みの設計(組織及び組織の状況の理解、リスクマネジメント方針の確定、アカウンタビリティ、組織のプロセスの統合、内部のコミュニケーション及び報告の仕組みの確定、外部のコミュニケーション及び報告の仕組みの確定)」を行い、「リスクマネジメントの実践(リスクを運用管理するための枠組みの実践、リスクマネジメントプロセスの実践)」後、「枠組みのモニタリングレビュー」を行い、「リスクマネジメントの枠組みの継続的改善」が行われます。図1: リスクマネジメントの枠組み
「コミュニケーション及び協議」の後、「組織の状況の確定の活動」並びに「リスクアセスメント(リスク特定、リスク分析、リスク評価)」、「リスク対応」が行われた後、「モニタリング及びレビュー」が実施されます。図2: リスクマネジメントのプロセス

従来のリスクマネジメントとは、「発生確率」と「重大さ」の組み合わせで考えられるリスクを、安全、環境、情報など各分野で管理することが一般的でした。しかし、ISO 31000が目指すリスクマネジメントとは、経営者が経営目標を明確にし、その目標の妨げや不安要素をリスクと認定し、最適化を図ることと定義しています。組織の目的達成を支援するツールと考えていただければよいでしょう。

ガイドラインではリスクマネジメントを次のステップで表しています。まず、上記でも述べたように組織が目指すべき目標や解決すべき課題、また課題を検討するうえで必要な外部条件(法規制、ステークホルダーの要求、経済・社会等の外部環境)や内部条件(経営資源、責任権限、組織構成等)を把握します。従前のリスクマネジメントでは、このプロセスが省略されている場合が多く、今回のガイドライン策定における重要なステップになります。ここからは従前のリスクマネジメントのステップに従って、設定された目標の達成を妨害、低下、または遅延させるかもしれない事象を特定します(リスクの特定)。特定されたリスクについて原因、影響度や発生確率を分析し(リスク分析)、対応の必要性の有無や優先順位を決定します(リスク評価)。これら3つのステップ「リスクアセスメント」を行い、リスクへの対応を行っていきます(図3)。この全体の活動を支えるのが「コミュニケーションおよび協議」です。リスクコミュニケーションとはリスクに関係のあるステークホルダーへの情報伝達・交換など情報の共有化を図り、必要に応じて専門家からの助言を受けるなど都度実施していきます。リスクへの対応の結果、十分な効果が得られたのか監視・レビューし、これらのステップを繰り返し行っていきます。マネジメントシステムのPDCAサイクルの考え方に酷似していますので、ISO 9001やISO 14001といった既存のマネジメントシステム規格に組み込むことも可能です。

1.リスクを回避する、2.機会を追求するためにリスクを取るまたは増加させる(戦略リスク、財務リスク)、3.リスク源を取り除く、4.発生確率を変える、5.重大さを変える、6.リスクを共有(移転)する、7.リスクを保有する図3: 7つの対応

ISO 31000は今後取引先のリスクマネジメントの状況を把握する国際指針として利用されることも考えられます。JQAでは認証サービスの提供も視野に入れながら、引き続き情報収集・発信を行っていきます。