情報誌 ISO NETWORK Vol.22

[特集]これからのISO 9001を考える インタビューとユーザーの意識調査から

ISO 9001ユーザーは、どのような意識で品質マネジメントシステム規格ISO 9001を使っているのか。

現在のISO 9001ユーザーは、それぞれ独自の目的と方法で規格と制度を利用。

経営方針とQMSの連携を目指して

株式会社安川電機
モーションコントロール事業部 品質保証部 課長 山内 高氏

安川電機では、経営の目標を視野に入れながら業務品質を向上させるツールとしてISO 9001を定着させています。業務品質が向上すればベースとなる製品品質はおのずと向上するという考え方です。製品の品質管理が仕様を守ることに重点を置いていたのに対し、業務品質は安川らしい文化、風土、人材から生まれるもので、それが安川ブランドとして顧客に届きます。ISO 9001は、そのための経営ツールであると認識しています。

トップマネジメントも共通の認識を持っており、中期経営計画の目標達成のための戦略や方針を議論する経営検討会議とISOのマネジメントレビューを統合し、ISOをわれわれが目指すものを達成するためのツールにしています。

同様に内部監査も今後は経営の方向性を議論する場としていきたいと考えています。各部門責任者には内部監査の資格取得を義務付け、自社の経営課題を踏まえたうえで、部門ごとの方向性や戦略に沿った内部監査を目指しています。内部監査が自らの健康チェックとするなら、認証機関の審査は定期健康診断のようなもので、改善の機会などの指摘を通じて、マネジメントシステムをより有効なものにするための気づきの場になっています。

今後はISOをオール安川の業務品質向上の共通言語とすることで、例えば国内のマザー工場のルールを海外工場に移管する際も、安川としての基本を守りながら進出先の事情に沿って柔軟な現地化が可能になっていきます。

当社では経営目標に到達するためのフレームワークとして規格を利用しています。今後のISO 9001では、将来のビジネスモデルを描く上で礎となるような改定は歓迎しますが、個々のパフォーマンスレベルまで要求事項に盛り込んで規格の柔軟性が失われることのないようお願いしたいです。顧客の声を生かしビジネスモデルの革新を進めるためのトリガーとなる、経営により近づけたQMSとして発展して欲しいと思います。

モチベーションを維持するためには、第二者監査の緊張感にも負けない、受審組織に嫌われるくらいの審査を。

SMC株式会社品質保証部長 宮本 道和氏
品質システムグループ課長 滝田 盛一氏
品質システムグループ係長 丸山 信治氏

当社では、ISOは海外生産拠点をはじめ、国内の技術センターや各国の技術センターなど異なる部門間でも、共通言語のようにひとつのルールの下で、ものづくりをすることができるという意味で大変有効な手段(道具)であるという認識であり、1998年の初回登録以来、12年間運用を続けています。

なお、当社は国内外の主要取引先から、客観性のある数値化された厳しい第二者監査を受けています。これらには、新規取引や継続取引といった直接のビジネスに懸かってくる問題なので、ISO 9001監査と比較すると、緊張感と達成感といった点において、格段のひらきを実感しています。

また、ISOシステムは、スパイラルアップと口では言うものの、いわばドライバーズライセンス化してしまい、そのステータスは無いに等しいと感じています。そのためISOシステムを常時組織内に浸透させ、本来の目的である顧客の立場での品質活動をするために、組織要員のモチベーションを維持することが難しくなっています。

今後の期待としてISOシステムに、業績向上や顧客満足を数値化しシステムを客観的に評価できる共通の指針があれば、社内の国内外でも、スパイラルアップさせるための目標値として進めやすいし、企業として戦略的武器にもなると思います。

これからのISO 9001の活動とその審査においては、審査の前に目的を明確にし、各企業の弱点克服のために審査自身を活用できるよう、認証機関とのコミュニケーションを強化し、受審組織が嫌がるような審査を心がけていただくよう、双方で進められれば良いと思います。

ISO 9001へのご意見

(文末のカッコ内は業種、初回登録年)

規格について

  • 品質保証をすることで会社の利益を得られる仕組みとなるような改定であること。また、規格要求事項が分かりやすい表現となること。さらに、解説または具体的事例をあげた内容になること。(電気・光学的装置 1994)
  • 規格要求事項が実際の組織の事業内容や運用状況に適したものに改正されることを継続的にお願いしたいが、専門委員会にユーザーの視点が欠けていると思われる。また、審査費用等組織の負担への影響を最大限考慮すべきである。(機械・装置 1996)
  • 1994年版から2000年版・2008年版とシステム運用中心になって、審査で現場改善・問題点が見えづらくなってしまった。現場改善に繋がるように、多少1994年版に揺り戻す必要があるのではないか。(印刷 2000)
  • 複数のマネジメントシステム(ISO 20000、PMBOK等)を採用している企業が、審査を受けるマネジメントシステムを統合し、規格を跨った審査ができるような改定内容を期待。(情報技術 2009)
  • 規格については、文章が理解し難いのが最大の難点です。元々は単純なことを強引に込み入った表現で記述しているような気がします。もっと平易な表現での改定を期待します。また、個々には教育訓練の有効性の評価(6.2.2)など、現実的な対応に配慮していない要求事項は改定を希望します。(研究開発・エンジニアリング 2010)
  • 現行規格は製造業を念頭に置いた設計でサービス業についても認証を行っているが、改定では対人サービスに対応した用語なり、設計を行って欲しい。(医療および社会事業 2010)
  • 簡潔な文書・簡潔な処理を期待します。(建設 2000)
  • 規格要求事項として、なぜ監視、測定、記録等が求められるのか。また、それを最低限遵守することが、どのように顧客満足度の向上や改善につながるのか、背景や理由を示したものを規格発行と同一機関から発行を期待する。(規格の解説書および審査員によるブレをなくすため)(電気・光学的装置 2000)
  • ISO 9001の規格の求める真意・目的が、いかに企業の経営手法・手段と一致できるかが鍵になるかと思います。よりフレンドリーな規格表現になることを期待します。(電気・光学的装置 2000)
  • この規格改定で、管理責任者の権限と、経営者が責任委譲する内容を明確にし、それを規格要求とする改定が必要だと思う。マネジメントシステムと言いながら、明確な権限がなくマネジメントできない。システムとして効果が十分発揮されない。(基礎金属・加工金属製品 1998)
  • 規格は現状で良いかと思います。規格の改善点などは思い浮かびません。(電気・光学的装置 2003)

※PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、米国の非営利団体が策定したプロジェクトマネジメントに関する知識体系。

審査について

  • 今の仕組みでもやる気のある組織はその実力の中で有効に行うと考えるので、今以上に「気づき」を与えるような審査を期待します。(電気・光学的装置 1996)
  • これまでのISO 9001審査員の柔軟な審査姿勢には満足しているので、今後も維持して欲しい。形式にばかりこだわるしゃくし定規な審査員も巷には多いと聞くので、JQAの審査員には、今後もそのようなことがないよう希望する。(研究開発・エンジニアリング 2005)
  • 経営的な側面までの内部監査を超える第三者監査を期待。「より良い審査とは、その指針とは」、というポイントがフォーカスされることを期待します。(電気・光学的装置 1995)
  • 審査については以前のように要求事項を盾に回答を求められることがなくなり、良い意味で我々の立場・仕事を理解して頂いていると思います。(建設 1997)
  • 今後の審査は、受審する組織のビジネスモデルを理解し、プロセスまたは業務を重視して適合の証拠を確認する審査が必要と思われます。(情報技術 2004)
  • 審査では、時代の変化等による多くの指摘を望みます。受審側が考えることではありますが、やることが増えるのではなく、トータルのマネジメントが合理的に運営できるヒントもいただけるとありがたいです。(その他製造業 2003)
  • 「継続的改善を図る体制ができているか、不足している点は何で、改善のために何を行う必要があるのか」により重点を置いた審査であって欲しい。ルール、エビデンス云々は必要でしょうが、それで縛ると形式的・認証継続のための活動に流れる。(基礎金属・加工金属製品 1998)

その他

  • 第三者機関による審査を受けISO 9001を認証取得している企業が増え差別化ができていない。どこでも簡単に取れ、取得している企業でも信頼できない。(認証企業の不祥事が多発している)したがって、もっと信頼できるものにして欲しい。(その他専門的サービス 1997)
  • ISO 9001を維持して10年余りが経過した。仕組みが整ってからは、活動のマンネリ化とともにパフォーマンスの停滞があり、ISO 9001認証維持のモチベーションアップに苦慮している。審査のやり方は内部監査にも反映されることから、中長期にわたってISO 9001を維持してきた組織に対する審査内容、あり方は審査員の力量も含めて再検討されるべきと考える。(その他運輸装置 1997)
  • 企業活動が国内に限定された企業では、あまりメリットがないため経営に役立つマネジメントシステムにすることにかなり企業内で苦労している。このMSが今後、発展し、経営者が素直に感じられようになって欲しい。(建設 2000)
  • 審査員間の知識や認識の違いを出来る限り縮めて欲しいです。審査員によって審査内容・程度が異なると、審査に通るために合わせることとなり、弊社が成長する妨げになり取得している意味がなくなる可能性があります。(印刷業 2002)
  • 景気の動向から見て費用負担が中小企業として大変厳しいと感じています、今後の費用改定に期待します。(電気・光学的装置 2002)

JQAメンバーズサイト上のアンケートにご協力いただきありがとうございました。