情報誌 ISO NETWORK Vol.25

株式会社 生出 事業継続マネジメントシステム(BCMS)を活用して、経営を強化する。 -第三者審査を通して、より有効なシステムに

株式会社生出(おいづる)は、包装材・緩衝材の設計から製造、販売、ロジスティック・サービスまで、一貫したパッケージング関連サービスを担う会社である。同社は、大規模災害時における事業の継続・早期復旧を行うための取り組みを積極的に進めている。東京都が実施した2010年度の「東京都BCP策定支援事業」に参加し、事業継続の具体的な計画となるBCP(Business Continuity Plan)を策定。その成果発表の場である東京都中小企業BCP策定推進フォーラムでは、最優秀賞を受賞した。同社はさらに、BCPの継続的な改善を行うべく、BCMS(Business Continuity Management System:事業継続マネジメントシステム)の手法を導入し、活用している。

代表取締役社長の生出 治氏に、BCPに取り組むようになった経緯から、BCMSを構築した動機、それらがもたらした効果やメリットなどについてうかがった。

総合的な対応力が求められる包装材・緩衝材事業

株式会社生出の提供する包装材や緩衝材は、高度なデザイン設計力を生かして開発された、専用度の高いものが多い。同社では、通信機・医療機器・コンピューターなどハイテクの精密製品のメーカーや医薬品メーカーを主要顧客として、ハイレベルで多様な要求にきめ細かいラインアップとサービスで応えてきた。これら包装材・緩衝材が活躍するのは、顧客の製造現場の最終ラインにあたる。途中段階のいろいろな調整を吸収するため、納期変更や数量変更が頻繁に起こる。包装材・緩衝材メーカーにとっては、数々の変更に素早く的確に対応し、常にジャスト・イン・タイムでサービスを全うすることが求められる。

「当社のビジネスは、ものづくりではありますが、サービス業の性格が強いのです。その意識を基盤として、お客さまの満足度を高めるサービスを提供すべく、各部門が密接に協力し、会社として総合力を発揮できるように努めています」(生出治代表取締役社長、以下同)。

また一般向けにも、デザイン開発力を発揮した、ユーザビリティに優れた独特の製品づくりで定評がある。たとえば処分しやすい紙を活用して開発した保冷材は、贈答用に幅広く使われている。

顧客ニーズに応えてBCP策定へ

同社が大災害時の事業継続への取り組みを推進するようになったのも、顧客ニーズに応えることが出発点であった。人工透析液を製造販売する医薬品メーカーが、人工透析液パックの出荷に際して、破損を防ぐクッション材として生出の製品を採用していた。多くの素材の中から、落下・振動・輸送などの厳しい試験を経て選ばれたものである。その医薬品メーカーから2009年ごろ生出に対して、災害時などでも安定した製品供給ができることを求められた。

「人工透析液は、一時でも止めてはいけない医薬品です。患者さんの生死に関わりますから。災害などで、万が一当社のクッション材の供給が止まってしまうと、医薬品メーカーの製品出荷に重大な問題が生じます」。

ちょうどこの顧客からの要望が出された頃に、東京都からBCP策定支援事業への案内があった。

「本当にいいタイミングでした。それまで事業継続には特別に取り組んでいなかったのですが、災害時にも、製品を安定供給したり、短期間で復旧できたりする仕組みを早急に作る必要がありましたから」。

こうして生出は、2010年度の「東京都BCP策定支援事業」に参加した。

従業員の意識を変える、「全員参加」「見える化」の取り組み

従業員の意識を変える、「全員参加」「見える化」の取り組み

生出がBCPの策定で留意したのは、「全員参加」と「見える化」であった。

「こうした活動を、特定部門、たとえば総務部などに一任してしまうとなかなか成功しないものです。当社では、従業員には皆、当事者意識を持って臨んでもらうよう、「全員参加」の仕組みを作ることを第一にしました。その上で、誰もがわかりやすいように、「見える化」を図ることにしたのです」。

社長を本部長とする災害対策本部の事務局には、各部門から人員を集めて、運営や方針決定にも多くの意見が反映されやすくした。また平時から設置される災害対策チームも、多くの従業員が参加して役割を分担した。たとえば、製造部門では、各部門の従業員たちが自分の担当区画の危険箇所はどこかを検証し、その危険箇所を撮影して写真入りのマップを作成した。そのマップをもとに、「機械の移動を防ぐためにアンカーボルトで固定する」「棚に転倒防止対策を施す」といった取り組みを打ち出し、実践していった。

一方、営業スタッフには、帰宅困難者対策として、運動靴、非常食、懐中電灯といった災害用グッズをまとめたキットを、営業車両に搭載してもらうようにした。避難訓練の手順書には、「誰が何を行うか」を吹き出しで明記し、社員一人ひとりが自らの役割と行動を、一目で理解してもらえるように努めた。

こうした活動を積み重ねていくことで、従業員の意識も、自ら積極的に参加しようとする前向きなものへ変わっていった。

生出が昨年一年間BCPに取り組んできたなかで、一番重視したことは、形式的な活動に陥らないようにということであった。

「形だけを揃えるのではなく確実に実効性が担保されなければリスクの軽減には繋がりませんので、実際の災害時に本当に役に立つBCPを作ろうということでやってきました。」

対策手順書についても一度作成したら完成とせずに、必要に応じて見直しと修正を図ってきたため、だいぶ現実感のある、実際の災害時に使える手順書になってきたと手ごたえを感じている。

「昨年度は初動対応を重点的に行ってきましたので、今年度は、復旧から事業継続に至るまでのプロセスに重点を置いて訓練と演習を繰り返し実施しています」。

避難訓練手順書 避難訓練手順書

BCPの強化・改善へ、第三者審査を伴うBCMSを導入−BS 25999の認証取得

生出ではさらに、BCPの策定にとどまらず、有効なBCMSの確立へ向けて取り組みを深め、2012年6月にJQAでBS 25999の認証を取得した。BS 25999はBCMSのデファクトスタンダードとして世界で活用されている。※1

「BS 25999の認証取得を通して、第三者の立場から審査してもらい、私たちが作り上げたBCP、BCMSの仕組みが本当に有効なものかどうか、検証したかったのです。実際に審査を受けて、いろいろと発見がありました。システムの有効性や効果を確認できただけではなく、ストロング・ポイント、グッド・ポイントを指摘してもらえました。自分ではなかなかわからないことですから、これは私にとっても、従業員にとっても自信になることでした。また、改善へ向けた課題も明らかになり、絶好の機会を得ることができました。※2 マネジメントシステムなら、訓練・演習、定期チェックを有効に機能させる継続的改善の仕組みができます。それにより、BCPの内容をどんどんレベルアップしていけるわけですから、第三者認証の効果は非常に大きいですね」。

  • ※1 BS 25999の要求事項を網羅するかたちで、2012年5月に国際規格としてISO 22301が発行された。JQAではISO 22301認証サービスを開始しており、株式会社 生出も次回審査時にISO 22301への移行を予定している。
  • ※2 審査では改善指摘事項(重大な不適合、軽微な不適合)は発見されず、改善の機会とストロングポイント、グッドポイントの指摘があった。 改善の機会としての指摘は、●随時行われる経営者を交えた事業継続マネジメントシステムの運用に関する会議における承認や是正の指示と、マネジメントレビューの関係性・位置づけの見直し。●事業影響度分析(BIA)とリスクアセスメント(RA)に、最新のリスク管理策を反映する施策。●BCMSで順守すべき法令の見直し等に関するものであった。
    また、ストロングポイントは、社員全員が事業継続の必要性と戦略をよく理解し、演習に参加し、リスクに対する感度向上や改善が目に見えるかたちで実施されている点。
    グッドポイントは、事業継続に影響のある仕入先を絞り込み、その仕入先担当者の判断のバラつきを抑えるために調査やヒアリングを重ねて事業継続の精度を高めている点であった。

BCP・BCMSの取り組みから得たメリット

生出のBCPの最大の特徴は、異なる地域で活動する同業他社同士が、災害時、お互いに協力工場として連携する仕組みを構築していることだ。

「当社が罹災し、復旧に時間がかかる場合には、被害のない地域にある協力工場に当社製品を委託製造してもらい、当社が品質保証を行った上で、遅滞なくサービスを継続できるように、契約を結んでいます」。

これにより関東圏の多くの地域をカバーできる体制を整えた。同業社同士で助け合う仕組みができて、情報交換が進んだり、BCP以外での協力体制ができたりするなど、二次的な効果も生まれた。

また自社の仕入先についても、いざというときの資材調達に困らないように、仕入先の非常時の製品供給体制の把握や改善の働きかけと、代替仕入先・安全在庫の確保や調整も行っている。

「ちょうど東日本大震災の少し前から、事業継続への取り組みを行っていました。被災地の仕入先が機能しなくなってしまった時期がありましたが、BCPを進めていたおかげで、代替先をいち早く確保できました」。

こうした具体的な事業継続への取り組みが、BCMSの仕組みのなかで、継続的に改善されていくわけである。その努力は、顧客からの高い評価、信頼度の向上という目に見えるメリットに結実する。

「特に、他社との協力体制や仕入先との連携については、注目度も高く、お客さまの安心感が高まっています。東日本大震災や、その後のタイで起きた洪水など、自然災害を経験して、多くの企業がサプライチェーンの安定性に敏感になっています。BCMSを運用し、常に事業継続の仕組みを意識的に向上させているかどうかが、取引先に選ばれる重要な要素になりつつあると実感しています」。

従業員のなかにも、安全確保の仕組みが確立されたことによる安心感が形成されてきたほか、トップと現場との意識の共有が図れたことも大きい。

「社内では、通常であれば、「どうやって会社を守ろうか」とトップと従業員が意見交換することは稀です。しかしBCMSという共通のテーマがあれば、会社を全体的に見直す視点から、いろいろな議論ができます。そういう場を定期的に設けることができたのが収穫ですね。経営の改善に大いに役立つと思っています」。

関東圏における同業者間の協力体制

経営強化に活用できるBCMS

「BCMSは、有効に機能することと、継続性が重要です。これはいくら強調しても、し過ぎることはありません」。

有効なBCMSとするため、生出では継続的な訓練・演習・定期チェックを繰り返している。マンネリ化を避けつつ実施する訓練や演習は、年間15〜20回にも及び、従業員の経験値を高めるのに役立ってきた。手順書やマニュアルの改訂も、数カ月かけてすでに10数回は行い、より実践的なものへ高められてきた。

「BCMSは、規模を問わず、どんな会社の経営強化にも活用できる使い勝手のよい仕組みではないでしょうか。当社でも、BCMSをしっかり行うことにより、幹部や現場責任者の育成を含めた、経営全体の強化に貢献しつつあります。会社の強みをより際立たせていけるように、今後も活用していければと考えています」。

BCPおよびBCMSの取り組み

株式会社 生出の概要

所在地 東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎1188 株式会社 生出
設 立 1958年1月
資本金 1,000万円
従業員数 56名
業務内容 軟質プラスチック発泡製品の製造、包装設計・加工・技術試験等の包装技術サービス、流通加工サービス。
ISO 9001初回登録 2000年2月
ISO 14001初回登録 2001年5月
BS 25999初回登録 2012年6月
ホームページ

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