株式会社ウェルシィは、地下水を安全・安心な飲料水に変える「地下水膜ろ過システム」のパイオニアであり、この分野で国内トップシェアを誇っている。同システムは、国内では東日本大震災以降、災害時等に水資源の安定供給の一翼を担うものとして注目を集め、海外からも重要な水リスクのソリューションの一つとして期待されている。こうした環境を背景に、ウェルシィは2013年、三菱レイヨン株式会社の連結子会社となり、新たな事業展開に踏み出している。
2002年、ISO 9001(品質)とISO 14001(環境)の認証を取得したウェルシィは、その後2013年、ISO 22301(事業継続)の認証取得を経て、MS(マネジメントシステム)の統合へ大きく舵を切った。品質と環境のMS統合を進め、JQAのマネジメントシステム統合プログラムによる審査で、2014年10月にはステージⅡの評価を獲得、さらに2015年6月にはプレミアム・ステージの評価を得た。同社はMS統合をどのように進め、パフォーマンスの向上へとつなげたのか。代表取締役社長の宮田 栄二氏、取締役の渡辺 愛彦氏、安全・環境・品質管理部主席研究員の吉田 全男氏にうかがった。
(取材日:2015年7月23日)
環境関連ビジネスのベンチャー企業として創業したウェルシィは、1997年に地下水膜ろ過システム事業を本格的にスタートさせ、同市場をリードしつつ成長を遂げていった。この成長には、MSの導入が大きく貢献した。宮田 栄二代表取締役社長は、こう語る。
「当社は2002年に品質と環境のマネジメントシステム(QMS、EMS)を構築し、ISO 9001とISO 14001の認証を取得しました。QMSは、業務プロセスの確立とガバナンスの徹底による組織の強化策として活用しました。一方、EMSは、“地球環境向上企業”を掲げ、環境関連ビジネスに取り組んできた当社にとって親和性の高い規格であり、認証取得は自然な流れでした。QMS、EMSの構築と運用が、ベンチャー企業であった当社が大きくステップアップするきっかけになったと見ています」。
また、MSの取り組みと認証取得は、同社にとって現在の会社に受け継がれる組織的な仕組みのベースになるとともに、他社との差異化要因にもなった。しかし、当初は会社の組織化に有効だったMSの活動も、年月を重ねるにつれ「認証取得のための活動」の様相が目立つようになる。渡辺 愛彦取締役は、その状況をこう解説した。
「たとえばEMSでは以前、省エネ活動などに重きを置いた運用を行い、それなりに効果を上げてきたものの、徐々に活動は停滞し、会社の営業戦略や技術開発などとダイレクトに連動しないまま、担当スタッフの負担ばかりが増えていくようになりました」
経営陣は、MSの取り組みに疑問を抱き、解決策を模索する。そうしたなか、2012年に事業継続マネジメントシステム(BCMS)規格のISO 22301が発行され、ウェルシィは、同規格のMS構築に取り組むことを決定する。
「当社の手がける地下水膜ろ過システムは、公共水道との併用によって水源の二元化を図ります。それによりユーザーは、①災害時の給水ライフライン確保による事業継続性の向上(BCP)、②災害時の地域住民への給水サービスによる社会貢献(CSR)、③水道料金の削減(CS)、④地下水の恒温性をうまく利用したエネルギー削減・足元からの取水であり大規模な設備が不要(環境)、という4つのメリットを得られます。このように、お客さまの事業継続への貢献がビジネスの根幹の一つですから、BCMSの構築は必須でした」(渡辺取締役)。
推進役となったのは、ISO審査機関の審査員としての経験も有していた吉田 全男主席研究員(安全・環境・品質管理部)だ。当時をこう振り返る。
「2012年2月以降、新規発行または改定されるISO規格には、共通要素※1が取り入れられることとなっていますので、規格間の整合化が進みます。その観点から、マネジメントシステムの統合は、今後の大きな潮流になると確信していました。ISO 22301は、共通要素が盛り込まれてから発行された最初の規格で、統合への第一歩となります。いずれ共通要素が取り入れられるISO 9001、ISO 14001とも統合を進めることにより、事業と一体化して機能する本来のMSの姿を取り戻せると考えました」。
「私は、MSの統合について、難易度が高く事務局の負担が大きくなると懸念していました。しかし吉田とともにBCMSに取り組み、共通要素の構成と狙いが良く理解できるようになり、目からウロコが落ちました。2013年10月頃からJQAと検討を重ね、MS統合には、内部コスト軽減、受審回数の低減、受審工数の削減、パフォーマンスの向上といったメリットがあり、手間もコストも省けた上に、より良いMSを構築でき、事業を好転させる絶好の機会になると納得しました」(渡辺取締役)。
こうしてウェルシィは、JQAのマネジメントシステム統合プログラムのサポートを得ながら、まずはQMS、EMSの統合へ向かうこととなった。三菱レイヨングループ傘下となった2013年12月から、経営陣ですり合わせを行い、順次、MSごとに異なっていた方針のIMS(統合マネジメントシステム)方針への一本化、事務局の役割を担う安全・環境・品質管理部を開設するなど推進体制の整備を進めていった。そしてIMSの運用・内部監査・マネジメントレビューなどを経て、2014年10月にはステージⅡの評価を得た。
ウェルシィは、IMS方針に事業の目標との合致を図るべく、地下水膜ろ過システム導入2,000ヵ所を達成するという具体的な目標数値を掲げるとともに、本業を通じて社会価値の向上を努めることとお客さま第一主義を明記した。
「地下水膜ろ過システムの拡販活動が、先に述べましたように4つのメリットをお客さまに提供しますので、IMSの目標実現につながるのです」(渡辺取締役)。
図2:IMS方針
さらに、事業計画策定から、各本部、各部門、個人の目標管理まで、事業のさまざまな活動をMSの活動と一体化させ、IMSのPDCAが、そのまま日常的な事業活動の改善につながるように改革を加速させた。
「当社では期初に社長が中期経営計画等を説明し、各本部長が前期のレビューと今期の事業計画目標を発表する決起大会を行っています。決起大会を含む会議体は、マネジメントレビュー、内部監査と結びつくようになり、さらに個人の目標を、IMSの目標管理チェックシートでフォローしていきます。事業目標の達成へ向けた行動が、そのままMSの活動に落とし込まれていくわけです。また内部監査では、従業員一人ひとりに、事業活動がMSそのものであると気づいてもらう活動も取り入れるなど、教育的な要素も盛り込んでいます。こうして従業員が日常業務に生き生きと取り組むようになり、審査に対しても前もって何か特別なことをすることもなく、自然体で臨むようになりました」(吉田主席研究員)。
2015年6月、ウェルシィは2回目の統合審査を受けたが、決算期の移行に伴う10ヵ月決算にも関わらず、過去最高の収益を上げるという結果も出し、プレミアム・ステージの評価を獲得するに至った。
図3:職務の責任と権限表/IMS推進体制
※ その他部署長会議、営業本部会議、技術本部会議等でIMS推進体制を補足する。
「ありのままの活動を見ていただいて、高い評価を得られたことは非常にうれしいことです。審査では、当社が推進するCSV※2経営についても高く評価していただきました。利害関係者がWin-Winの関係を築くことが当社の志向するCSV経営ですが、それをIMSにより、推進できたと第三者の視点から確認されました。手ごたえを感じるとともに、これからも審査で改善の機会として挙げられたポイントに対して、部門間の連携を図りつつ組織的な改善活動を行っていきたいと考えています」(宮田社長)。
さらに、来年の目標は、IMSにBCMSを加えることである。
「BCMSの方針をIMS方針に含めるなど、実際には、深いレベルですでに統合が進展しています。結局、どの規格に基づくMSを取り入れていくにしても、事業と一体化できていれば、やるべきことは変わりません。それがIMSの大きな利点ですね」(渡辺取締役)。