製品含有化学物質管理とISO規格の組合せ審査を受け、今年10月に第一号として認証を取得したのは、ワイヤーハーネスの製造・販売を手掛けるトモト電子工業です。どのようなねらいで認証取得に踏み切ったのか、認証取得でどのような効果が期待できるのか――。代表取締役の滝田昇氏にお聞きしました。
ワイヤーハーネスとは複数の電線を束ねた部品の一種で、見た目が馬をコントロールする馬具の一種「ハーネス」に似ていることから、こう名付けられました。多くは電線と接続用のコネクター・端子で構成されていて、各種電気機器の内部配線に用いられます。
福島市内の工業団地に本社工場を置くトモト電子工業は、1973年の創業以来、このワイヤーハーネスの製造・販売を手掛けてきました。国内3工場体制の下、豊富な設備と在庫を武器に順調に顧客を増やし、NECやソニーのグループ会社をはじめ、上場企業10社以上の顧客と直接の取引関係を築いています。
製品含有化学物質に関しては、顧客の指定する資材を仕入れるのに先立って、品質管理部門が仕入れ先に測定データの提供などを依頼します。顧客ごとに作成するガイドラインに照らして問題のないことが明らかになった段階で、その資材を仕入れ、顧客に納める製品として仕上げていきます。
こうした製品含有化学物質管理の手順に問題はないか、上場企業を中心とする顧客約20社から監査を受けます。トモト電子工業では、これらの顧客の作成した化学物質管理に関するチェックリストをもとに自社で独自の管理規定を作成し、その規定に従って管理を徹底してきました。
ただ、管理規定はあくまで独自のものに過ぎないうえ、異なるガイドラインをもとに顧客から受ける監査にはどうしてもバラツキが生じます。滝田社長は、「『RoHS指令』に従っていればいいというお客さまもいれば、物質ごとの閾値(しきいち)まで詳しく示すよう求めるお客さまもいます。監査項目が100あるとすると、基本の70は共通ですが、残る30はお客さまそれぞれ独自のものと言えます」と明かします。
製品含有化学物質管理とISO規格との組合せ審査を受けることを視野に入れて、JQAとやり取りを始めたのは、今年2月です。「当社で独自に定めた管理規定を、ISOの規格に組み込むことのできる好機ではないかと考えました。さらに、顧客からの監査を共通の方向に向かわせることができるかもしれないとの期待もあって、組合せ審査の利用に踏み切りました」(滝田社長)。
トモト電子工業では2003年8月にはISO 9001の認証を、続いて2005年12月にはISO 14001の認証を取得済み。2006年と2008年にはそれぞれ、1度目の更新も済ませていました。製品含有化学物質管理と組み合わせるISO規格としては、ISO 9001とISO 14001のどちらも同じように想定できる状況でした。
もっとも、同社では製品含有化学物質管理をISO 9001規格と同じ品質管理部門で担当することから、自ずとISO 9001との組み合わせを前提に審査に向けた準備を進めていきました。現状、ISO 9001規格の認証が2度目の更新時期を迎える年であることから、定期審査の予定される今年9月から10月にかけての時期を認証取得の目標にすえました。
滝田社長は「ISO 9001規格の認証や独自の管理規定という下地はすでにあるので、準備期間は半年もあればいいだろうとの判断でした。ところがその後、3月11日に東日本大震災に見舞われてしまいます。お客さまへの対応に時間を振り向けざるを得ない中で、なんとか登録を終えることができました」と振り返ります。
組合せ審査にあたってJQAでは、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)で定める製品含有化学物質管理ガイドラインとNECグループで用いる製品含有化学物質管理アセスメントをもとに審査基準を作成しました。NECグループは、トモト電子工業の売り上げに占める割合が最も大きい顧客です。それだけに、その基準を審査のもとにすることが、実務上、最も適していたわけです。
製品含有化学物質管理とISO 9001規格の組合せ審査を受け、今年10月、当初の予定通り、その認証の取得に至ったトモト電子工業。ISO 9001とISO 14001と製品含有化学物質管理の3つに分かれていたマネジメントシステムは、大きく2つに集約されました。それに伴って、責任体系も2本の流れとして明確に整理することができました。
今回の認証取得にはどのような意義が見込まれるのか――。滝田社長は大きく2つのメリットを挙げます。
「今回、製品含有化学物質管理をISO 9001規格に組み込んだことで、各社に共通する基本の項目が抽出されて、手順化されることになりました。これで、新規のお客さまからは化学物質管理に対する理解を得やすくなるとみています。お客さまから監査が入るにしても、これまでは例えば半日掛かっていたのが半分で済むようになるのではないか、と期待しています」
「さらに、大手企業に対する営業には大きなプラスになるだろう、と期待を掛けています。いまや、ISO 9001やISO 14001の認証を取得しているのは当たり前という時代です。一方で、大手企業の要求は、製品含有化学物質管理の在り方に移ってきています。それに対応できていることは、大きな評価につながるはずです。そのことを、認証機関として信頼性の高いJQAが裏付けているということは、水戸黄門の印籠にも似た大きな信頼を市場で得ることができます」
市場のさらなる拡大を狙うトモト電子工業が目標に掲げるのは、「製造商社」という業態です。滝田社長はその背景と意味合いをこう説明します。「私たちの業界ではいま、個人経営か大手企業しか残っていません。中途半端な規模の企業は生き残れない時代です。生き延びていくには、『製造』で付加価値を生み出し、『商社』で管理費を得ていく業態で、競争力を高めていくほかありません」。
将来、設備投資資金に余力が出てきたら、製品含有化学物質の測定機器を購入していきたい、と滝田社長は考えています。「いまは、必要が生じたら、県の施設を利用しています。しかし、それでは費用が高くつくので、割に合いません」(滝田社長)。マネジメントシステムというソフトに、測定機器というハードを加えることで、製品含有化学物質管理に対する万全の態勢を整えていく考えです。
所在地 | 福島県福島市 |
---|---|
設 立 | 1973年2月28日 |
資本金 | 3,400万円 |
従業員数 | 118名 |
業務内容 | ワイヤーハーネスの加工販売(リード線組立)、コネクター、端子、電線、チューブ等の販売 |
ISO 9001初回登録 | 2003年8月22日 |
ISO 14001初回登録 | 2005年12月16日 |
製品含有化学物質管理 | 2011年10月14日 |