ビル・施設管理会社である株式会社オーエンスは、卓越したマネジメント力が高く評価され、公共施設を含む大規模施設の運営管理で、数多くの実績を積み重ねている。対象施設に病院、大学、大型ホテル、スポーツ施設などが挙がる。
「当社は官から民への流れのなかで、早い段階からPPP事業も立ち上げて公共施設の指定管理者となり、積極的な受注に取り組んできました」(大木社長)。
同社の手がける大規模施設は、エネルギーの使用量も大きい。これら施設では近年、省エネやエネルギーに対するリスク・マネジメントを求める動きも顕著だ。
「東日本大震災と原発事故以来、環境とエネルギーが注目されています。また緊急対応や総合的なリスク・マネジメントへのニーズも非常に高まっています。こうした状況で、当社はファシリティ・マネジメント分野でのビジネス成長を期し、長年培った施設管理運営のノウハウに磨きをかけ、サービスの差別化を推進しています」(大木社長)。
ターゲット市場である公共施設の入札では、金額提案だけではない、企画提案力・実践能力が問われる、総合評価方式が主流となってきた。その際、省エネ提案が、他社との差別化の一大要素になる。
「たとえば、当社の手がけるプールを保有する大型のスポーツ施設では、温水供給のために大量のエネルギーが必要です。確かな省エネ提案ができれば、採用へ向けてアドバンテージを得られます」(大木社長)。
こうした背景のもと、省エネ提案のレベルアップへ向けて、オーエンスでは、ISO 50001を導入する道を選択した。
「ISO 50001については以前から注目しており、昨年8月にJQAが開催したセミナーに出席して詳細を知りました。そこで知った内容と、当社のビジネスをすり合わせ、この規格を取り入れることにより、顧客満足度の向上が図れる、それが当社サービスの差別化につながると判断したのです。」(九里昭執行役員)。
EnMSを導入して、数値データをもとに省エネの「見える化」を図り、具体的な行動に結びつけ、数値実績を出して、お客さまに削減効果を明確に理解していただこうというわけだ。また規格に取り組むことで人財育成を進め、技術力・サービス力も併せて強化できるメリットもあった。
ISO 50001は施設ごとの導入になるが、オーエンスでは、以前から管理契約を結ぶ、都内の病院2施設から取り組みをスタートした。
「病院は24時間体制で、しかも手術室など、当社の関われない領域もあり、非常にデリケートな管理を要求されます。そういうハードルの高いところで実績を積めば、ほかのどのような施設でも応用が可能になると考え、最初に取り組むことにしました」(大木社長)。
2施設とも300以上の病床を持ち、地域の中核を担う病院である。それぞれの防災センターにオーエンスの技術スタッフが常駐し、施設の管理運営を行っている。ISO 50001を導入して、運用管理手順として、緊急対応マニュアルを含む業務フローチャートを作成し、これに即した施設管理の仕組みを構築した。
「日常の点検、検針、保守作業で、個別業務を見えるよう業務フローチャートにし、スタッフが手に持ちながら巡回、Yes/Noで判定しつつ矢印の先に進んでいく仕組みです。異常があればそのまま緊急時の対応に進むようつくっています」(内田恵司取締役)。
「業務の流れは、ともするとYes、Yesの方向だけを追ってしまいがちですが、Yes/Noを明確に組み込んで、緊急時の対応力を日常的につけていくわけです。そして緊急時の対応では、操作が悪いのか、機械・装置の問題なのか原因追及する上で、短時間で方向性が見出せます」(九里執行役員)。
「皆がわかりやすく作業を進められ、予防的な取り組みにもなる。とっさの対応力が違ってきます」(大迫文敏警備保安部長)。
導入に当って1カ月の規格づくりの後、現場責任者を含めて、専門用語など難解な部分の理解を図る研修会を何度も行った。さらに行動計画、目標設定をどう設定するか、また天候や不確定要素で計画を外れたときにどういう補正をかけるかという、現場での処理の仕方を徹底的に検討し、浸透に努めた。
「現場責任者の持つ省エネのノウハウをシステム化するためにも、2施設の現場と当社の担当部門の一体化を進めました。」(九里執行役員)。過去1年間保有していた使用エネルギーのデータベースも、その妥当性を第三者認証により確かなものとし、PDCAサイクルを着実に回す基盤が整えられている。
ISO 50001の導入は、社員のモチベーションの向上という効果も生み出している。
「言葉だけではなく、目に見える行動として、次に何をやるかを常に問いかける。これを徹底することで、個人の視野が広がり、意識的に行動半径も広がって、行き届いたサービスが形成されます」(九里執行役員)。
「人財育成に非常に効果的ですね。やりがい、使命感を持って仕事ができ、スキルアップ、技術力アップへ臨む姿勢も培われるなど、手ごたえを感じています」(大木社長)。
今後は、病院2施設で得た経験を、次なる提案へつなげる考えだ。大学、病院、スポーツ施設など施設ごとに特化したきめ細かなEnMSづくりへ、現場とマネジメントの位相を合わせて取り組み、受注拡大を図っていく。
一方で設備更新のタイミングでの企画提案も大きなチャンスになる。オーエンスは設備会社と提携し、設備工事とメンテナンスを組み合わせた総合提案での受注拡大も推進している。
「設計の段階から、メンテナンス費用も提示し、ライフサイクルコストで提案します。その際、ISO 50001を活用した運営ノウハウで、設備を長く効率よく使えることを示せれば、長期の契約であるほど有効な提案になります」(大木社長)
所在地 | 東京都中央区築地 |
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設 立 | 1959年6月 |
資本金 | 1億円 |
従業員数 | 約2,300人 |
業務内容 | ビル管理事業、プロパティ・マネジメント事業、PPP事業、スポーツ管理事業、レストラン関連事業、医療関連サービス事業、施設運営マネジメント事業、ホテル管理事業 |
ISO 9001 初回登録 | 2000年11月 |
ISO 14001初回登録 | 2001年12月 |
ISO 50001初回登録 | 2012年4月 |