情報誌 ISO NETWORK Vol.26

特集1 ISOマネジメントシステム規格は、共通要素採用でどう変わるか

ISOマネジメントシステム規格 共通要素開発の背景と共通要素の特徴

ISOマネジメントシステム規格間の整合化を図るために

ISOマネジメントシステム規格は、章立てや要求事項、用語・定義が異なるため、規格間の整合が取りにくく、ユーザーに混乱をもたらすケースがあった。また、複数のISOマネジメントシステム規格を導入・利用する組織にとっては、それらを統合して運用することが容易でないこともあった。

ISOではユーザー調査などで明らかになったこれらの課題解決のために、2006年から2011年にかけて、整合性を高めるための議論※1を行い、2012年2月にISOマネジメントシステム規格共通要素を承認※2した。

その結果、それ以降制定あるいは改定されるすべてのISOマネジメントシステム規格は、原則としてこの共通要素を採用して開発することが義務づけられた。すでにこの共通要素は事業継続(ISO 22301)、道路交通安全(ISO 39001)、情報セキュリティ(ISO/IEC 27001)などの分野で採用され、今後ISO 9001、ISO 14001等へ採用されることが決まっている。

表1:共通要素によるISOマネジメントシステム規格の章立て

  • ※1 主な議論は以下の5点。(1)マネジメントシステム監査の指針(ISO 19011)の改定、(2)ISOマネジメントシステム規格の整合性確保のためのビジョン作成、(3)ISOマネジメントシステム整合性確保のためのマネジメントシステム基本構造(上位構造)の開発、(4)ISOマネジメントシステムの共通テキスト(要求事項)の開発、(5)ISOマネジメントシステムの共通用語・定義の開発。ISO/TMB(技術管理評議会)/TAG13-JTCG(合同技術調整グループ)においてマネジメントシステム上位構造(HLS:High Level Structure)、マネジメントシステム共通要求事項、共通用語・定義の開発を進めた。
  • ※2 2012年5月、ISO/IEC Directives(専門業務用指針)のSupplemen(補足指針)の改訂版Annex(附属書)SLが発行され、「ISOマネジメントシステムの共通要素」として、同一の構造、同一のテキスト(要求事項)、共通用語・定義を提供。
  • ※3 共通要素(マネジメントシステム規格文)公開中。ISOマネジメントシステム規格作成者向けの指針(Directives)が一般財団法人日本規格協会(JSA)のWebサイトにPDFで公開されていて、2013年12月5日現在プリントすることもできます。『統合版ISO補足指針の和英対訳版』第4版,2013年(全356ページ)の付属書SL(SLは項番で特に意味はありません)「マネジメントシステム規格の提案」の末尾に添付されているAppendix2の「規定(normative)」「上位構造、共通の中核となる共通テキスト、共通用語及び中核となる定義(High level structure,identical core text, common terms andcore definitions)」に、これからのISOマネジメントシステム規格の共通部分(序文、1〜10章の規格文;英語、日本語各10ページ)が公開されています。「統合版ISO補足指針の和英対訳版」で検索するか、JSAのWebサイトから[HOME]-[提供サービスのご案内]―[ISO/IECの規定・制作等(目次)]-[ISO/IECの規定・制作等【1】【2】【3】]の【2-1】ISO/IEC専門業務用指針(ISO/IEC Directives)にアクセスしてください。

規格の組み立ては新しくなるが、考え方は変わらず

ISOマネジメントシステム規格に共通要素を採用することは、既存の規格の構造を変えることになるので、大幅な変更にも見えるが、実際はそうではない。目的や考え方は大きく変わることはなく、共通要素の採用によって、PDCAの関係を整理し、組織のマネジメントシステムがより効果的に運用されることを目指している。

ISOマネジメントシステム規格共通要素とISO 9001、ISO 14001など各規格の関係は、大木の幹と枝葉に例えられる。幹となる共通要素で共通の章立て、要求事項、用語・定義を提供し、各規格固有の要求事項が枝葉として付加されるイメージとなる。(図1)

ISOマネジメントシステム規格共通要素と各マネジメントシステム規格の関係

共通要素の採用で整合化されるもの

共通要素を採用することによって、すべてのISOマネジメントシステム規格の章立ても前ページの表1のように統一される。共通要素の採用によって各ISOマネジメントシステム規格の要求事項は多くの部分が共通となり、用語・定義を含めた全体の整合性が高められる。

規格間の相違は、個々のマネジメントシステム分野の特別に必要とされる要求事項について認められ、共通要素に追加される。例えば改定が進められているISO 9001のCD(委員会原案)では、8章「運用」の共通の要求事項8.1項に、品質マネジメントシステム固有要求事項の8.2項「市場のニーズの明確化及び顧客との相互作用」、8.3項「運用計画プロセス」、8.4項「商品・サービスの外部からの提供の管理」、8.5項「商品・サービスの開発」、8.6項「商品製造及びサービス提供」、8.7項「商品・サービスのリリース」、8.8項「不適合商品・サービス」の要求事項が追加されている。

共通要素の各章は全体で右記のような関係で、PDCAを形成する。(図2)

図2:共通要素の章立てにおけるPDCAの関係

統合化へのメリット

複数マネジメントシステム規格の認証を取得している組織にとっては、ISO マネジメントシステム規格が共通要素を導入することで、以下の事項について効率を改善できマネジメントシステムの統合活用が容易になる。

  • 規格の章立てが同じになるので、規格別に複数あった“文書化した情報”を共通化することができる。
  • 内部監査の要求事項も共通化され、複数マネジメントシステムの内部監査を一括実施するなど効率化することができる。
  • 複数のマネジメントシステム規格間で、優先する活動を総合的にバランスよく仕分け、全体最適化を追求することができる。