情報誌 ISO NETWORK Vol.26

あらゆる組織の人材育成の課題に応える学習サービスマネジメントシステムISO 29990 2013年2月、JQAは学習サービスマネジメントシステムISO 29990の認証サービスを開始した。ISO 29990は、経営のグローバル化や人材の流動化が進むなか、質の高い教育・訓練・人材育成の提供を目指す幅広い分野の組織が活用できるマネジメントシステムとして注目されている。

人材の流動化が進むヨーロッパ主導で策定されたISO 29990

ISO 29990は、EUの発足を背景に人材の流動化が盛んになったヨーロッパの主導で、2010年9月に発行された学習サービス事業者向けの国際規格である。ISO 29990の正式名称は「非公式教育・訓練における学習サービス−−サービス事業者向け基本的要求事項」であり、認証可能な規格である。「非公式教育・訓練」とは、小学校、中学校、高等学校などの公式教育以外の教育・訓練を指すが、その対象は学習塾、語学教室、民間の職業訓練機関だけでなく、企業研修機関や資格取得支援組織など幅広い学習サービス事業者を想定している。

企画調整部 商品開発室 室長 内田 英明

ISO 29990の序文には、「非公式教育・訓練・人材育成の企画、開発、提供に関し、学習サービス事業者と顧客に対して、質の高い専門的な業務及びパフォーマンスのための汎用モデル及び共通の枠組みを提供することを目的としている」ことが記されている。学習サービス事業者に、いわば、サービスの品質の保証と向上を目指すための基準を提供するもので、品質マネジメントシステムISO 9001との類似点も多い。

企画調整部 商品開発室 主幹 鋤柄 耕治

ISO 29990の特徴――2つのマネジメントシステムのPDCAを回す

ISO 29990は、(図1)のように「学習サービスに関する要求事項(3章)」と「学習サービス事業者のマネジメントに関する要求事項(4章)」の2本柱で構成されている。研修コースのような学習サービスと組織のマネジメント、それぞれのPDCAを回していくことにより、学習サービスの継続的改善を図ることを要求している。

具体的には、3章では、(図2)のように学習サービスの質の向上のために、事業所や受講者といった利害関係者のニーズを把握し、研修カリキュラムを作成(P)、適切な講師によりカリキュラムを実施する(D)。実施後には事業所や受講者にヒアリングやアンケートといったモニタリングを行い(C)、それらを反映させて学習サービスの改善につなげる(A)といったPDCAサイクルになる。

また4章の10項目をPDCAに割り当てると、(図3)のように考えることもできる。学習サービス事業者にマネジメントシステムとして適用することで、組織の課題を見つけ出し是正することで改善につなげるものである。全体としてISO 9001と共通の内容が多いが、事業継続の観点から財務管理に注目し、講師などの人事管理や外部の利害関係者からのフィードバックを重視するなど、学習サービスマネジメントシステムならでは要求事項も含まれている。

図1:ISO 29990規格の構成

図2:3章 学習サービスに関する要求事項 図3:4章 学習サービス事業者のマネジメントに関する要求事項

企業内の学習サービス提供部門にとってもメリットの大きいISO 29990

ISO 29990は国際標準化機構(ISO)によって発行された多くのマネジメントシステム規格、とりわけ品質マネジメントシステムISO 9001との類似点が多い。一方、要求事項はISO 9001の約140項目に比べ約40項目と少なく、内容も教育現場に直結しているものが多いため、PDCAサイクルをつくりやすい規格となっている。また学習サービスの提供が事業の一部である場合も、その事業部門や部署(企業内の研修部門等)に限定した適用や認証取得が可能となっている。そのためISO 9001認証を取得されている組織になじみやすく、また他のマネジメントシステム規格と合わせた運用も可能である。

ISO 29990を導入・運用することで、組織内の透明性の確保、従業員のモチベーション向上が図られ、提供する学習サービスの品質向上と継続的な改善が実現できる。これにより顧客からの信頼向上だけでなく、対外的にアピールすることで競合他社との差別化を図ることも可能になる。

ISO 29990の普及を通してさまざまな企業の人材育成に貢献

JQAは、ISO 9001の審査を通して、人材の育成や技術の伝承を切実な課題とされている組織が多いことを把握しており、ISO 29990は、まさにこういった課題の解決に貢献できる規格であると認識している。JQAは、これまでもさまざまな規格、多様な業種の審査を手がけており、これらの経験をもとに構築したデータベースを活用し、ISO 29990認証においても適切な審査ノウハウを提供することが可能である。

また、ISO 29990の普及に向けてセミナーを開催しており、これまでも企業の教育部門、民間研修機関など、幅広い立場の方々に参加いただいている。今後も、ホームページや情報誌などを通じて継続的な情報発信を行い、ISO 29990の普及を通して、より多くの組織の課題解決に貢献していきたいと考えている。