ALSOK(綜合警備保障株式会社)は、災害、事故などの事態に備え、かねてから策定していた事業継続計画(BCP)をベースに、2014年3月、事業継続マネジメントシステム(BCMS)ISO 22301の認証を取得した。ALSOKにとっての事業継続の意味やBCMS導入の経緯とその社会的な意義について代表取締役社長の青山幸恭氏に語っていただいた。併せて、BCMS事務局スタッフの方々より、実際の運用やその効果、今後の進め方などをご紹介いただいた。
「当社の主要事業は、人々の安心・安全を確保する、いわば社会のインフラを支える役割を担っています。災害、事故などの予期せぬ事態に備え、それらが現実になった際にも適切に対応できるようにすることは、会社の経営面からも、顧客サービス面でも、また社会的な責任という観点からも、きわめて重要なテーマです。このため、2007年3月にBCPを策定し充実を図ってきました」(青山幸恭代表取締役社長、以下同)。
同社のBCPは、地震(特に首都直下型地震や東南海トラフ地震)、台風などの自然災害、システム障害、新型インフルエンザの感染爆発(パンデミック)など幅広い現象を想定し、現象ごとに特化した手順の作り込みを進める一方、本社・地域本部・事業所ごとに実践的な訓練をきめ細かく実施してきた。
「BCPはここまでやればよいということはなく、決して最終形のない取り組みだと思っていました。そして、2011年の東日本大震災を経て、さらなる努力の必要性を痛感しました。こうしたなか、国際規格であるISO 22301を知り、レベルアップに向けての良い活用ツールになることに加え、他社との差別化にもつながるだろうと判断し、検討を進めました。」
2012年10月から、ISO 9001やISO 27001などの事務局を担当していたCSR推進室を中心に情報収集を開始。そこから半年の調査で、ISO 22301がALSOKに非常に親和性の高い規格であることがわかってきた。
「皆で調べれば調べるほど、当社にとって重要な規格だと認識が深まっていきました。2013年6月の経営会議で議題に上げ、すぐに認証取得へゴーサインを出すこととなったのです。業界のリーディングカンパニーとして先陣を切り、チャレンジしようという意味合いもありました。」
従来からのBCPに基づく活動は日本全国すべての事業所で行っているが、ISO 22301の登録活動範囲は警備輸送業務およびATMの障害対応業務とし、事業所は同業務に関係する本社各部と東京都内の事業所とした。これは、警備輸送業務が同社の事業活動の中核事業であるとともに、社会の根幹を支える重要な役割を担う点を考慮した。また本社、東京都内という対象エリアについては、売上規模の大きさや金融機関の本社の多くが東京都内にある点なども考えたという。
警備輸送業務では、現金輸送車で現金、有価証券等を指定の時間、場所に輸送する業務に加え、大手コンビニエンスストアなど向けにATM綜合管理業務を一手に引き受けるなど、ALSOKの果たす役割は幅広く、複雑なものとなっている。認証範囲に含められたATMの障害対応業務も、こうした管理業務の一環である。
「災害でATMが使えない、金融機関から現金が引き下ろせないといった事態が発生すると、一般の方々に大変なご迷惑をおかけします。一般の方々は、直接当社と契約しているわけではありませんが、私たちの大切なお客さまです。事業継続は社会的な責務と言えます。」
綜合警備保障株式会社(以下、ALSOKという。)は、警備業を中心とした事業を提供する企業として、社会的な責任を十分認識し、災害、事故などのリスクが顕在化した際に、リスクへ適切に対応して組織を安定化し、可能な限り事業継続を図る目的で、事業継続計画(BCP)を策定し、事業継続マネジメント(BCM)に取り組みます。
(平成25年12月9日制定)
事務局として、社内を横断的に束ねた総務部CSR推進室のメンバーは、マネジメントシステムの仕組みづくりから、実際の運用について次のように紹介している。
「ISO 22301に基づく仕組みづくりは、それまでのBCPの取り組みと規格要求事項を結びつける形で進めました。また、事務局を中心に、対象範囲の各事業所のスタッフを巻き込みながらシステムの構築に取り組んでいったのです。」
各事業所から代表者が出席し、常時20~30名が参加するミーティングを月2~3回ずつ行っていった。具体的な作業は地域をまとめる主要な事業所を先行させ、そこで問題を抽出させながら、他の事業所に展開を図るというスタイルで進めた。スタートから6カ月間でおおまかな仕組みをほぼ作り上げ、年明け以降の3カ月間で細かい修正を図って審査に入り、2014年3月に認証を取得した。
「当社の指揮命令系統はしっかりしていて、BCPの活動においても、そこは強みとしてうまく機能していました。しかし、BCMSの観点でこれまでのBCP活動を見ていくと、計画、実行の部分はできていたけれど、改善へ向かう仕組みが欠けていることがわかってきました。このたびのISO 22301の取り組みで、そこを埋めて、チェック・レビューから改善を進められるようになり、レベルアップできたのは大きな成果ですね。」
2012年 | 10月~ | 情報収集 |
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2013年 | 6月 | 認証取得に向けた決定 |
7月~ | キックオフ宣言、認証推進プロジェクト、ワーキングチーム設置 システムの立ち上げおよび文書化の準備 |
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12月 | 内部監査 | |
2014年 | 1月 | マネジメントレビュー |
2月 | 登録ファーストステージ審査 | |
3月 | 登録セカンドステージ審査 | |
3月20日 | 認証取得 |
ALSOKで作り上げた改善の仕組みとは、たとえば、事業所単位で行ってきたシミュレーションや訓練において浮き彫りになった課題を事務局で吸い上げてとりまとめ、改善提案として再び各事業所へ展開していくということである。これにより、BCPにおけるスムーズな復旧への道筋が全社的にも強化されていった。
「もともとALSOKの訓練は、テーマも変化に富み、各事業所単位で個性的な活動も多かったのですが、そこであぶりだされた課題や知見は他の事業所にも有益なものがあります。 これを全社で共有し、ともに考えることができるようになったのです。」
さらに、第三者機関による審査を通じて、各事業所スタッフの意識向上がなされていることも、BCMSの導入効果の一つである。
「指摘を受けたり、良い点をほめていただいたりすることで、気づきがあったり、自信を持って活動を強化するきっかけになったりする。いい刺激を与えていただいていると思います。また対外的にも、第三者認証を取得していることをアピールできます。」
ALSOKでは、今後の活動のレベルアップを重要な課題としている。警備輸送においても、輸送する交通網の問題や燃料の問題にすでに着目し、バイクや自転車の日常的な活用を進めるなどの具体的な対策を講じていく考えだ。
「当社の業務の責任の重さを感じ、さらなるレベルアップへ邁進していかなければなりません。平時でも有事でも、警備会社の責任を果たすためには施設や情報システムの強化も重要ですが、さらに大事なのはそれぞれの活動を担う人材力です。予期せぬ事態にしなやかな回復力を発揮していくうえで、ISO 22301の導入が非常に有益であると認識していますので、今後、認証範囲や対象エリアの拡大も視野に入れながら活動していきます。」
所在地 | 本社/東京都港区元赤坂 1-6-6 |
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設 立 | 1965年7月 |
従業員数 | 連結28,091人 単体12,422人(2014年3月31日現在) |
業務内容 | 機械警備業務、警備輸送業務、常駐警備業務、綜合管理・防災事業 |
ISO 22301初回登録 | 2014年3月 |