日立自動車交通グループは362両の車両を保有し、日立自動車交通、日立自動車交通第二、日立自動車交通第三の3社において、タクシー・ハイヤー、乗合バス、貸切バス、民間救急車、コミュニティバスなど多様な運行事業を展開している。同社はISO 14001 、ISO 9001の認証を取得し、さらに2012年10月、ISO 39001認証を取得した。その導入経緯や認証取得の効用についてバス事業部部長代理の西窪裕光氏にうかがった。
事業における道路交通安全の占める位置づけについてお聞かせください。
最重要かつ最優先させるべきテーマであると位置づけています。
交通事故防止のための活動は、旅客自動車運送事業者にとって、最重要かつ最優先すべきテーマであると考えています。日立自動車交通グループは、タクシー、ハイヤー、バスなどの事業を行っていますが、各社の営業業態が異なるため、それぞれの特性に応じた交通事故防止活動が必要です。また、従来からの取り組みによって、一定の成果は得られていますが、すべての事故がなくなったわけではなく、常に新たな取り組みを進めていく必要があります。
これまでの道路安全対策についてお聞かせください。
運輸安全マネジメントや、ISO 14001、ISO 9001の仕組みを導入し、事故削減に取り組んできました。
グループ全体で300両以上を保有し、組織の中においてきちんとした仕組みを確立させたいという経営者の判断もあり、運輸安全マネジメントの取り組みを行いつつ、さらにISO 14001、ISO 9001の認証を取得しました。ISO 14001については、環境問題の一環として事故削減を位置づけ、事故を減らすことで無駄な板金や塗装のための資源も削減でき、安全運転をすることで燃費も向上するとの考えで取り組みを進めました。またISO 9001の認証取得にあたっては、クレーム削減=事故削減と結びつけて、システムを構築しました。
ISO 39001認証取得の目的についてお聞かせください。
これまでの取り組みを体系づけるという目的からISO 39001に着目しました。
運輸安全マネジメント、ISO 14001、ISO 9001と取り組んだことで一時的には成果がありましたが、PDCAが継続的にうまく回っていなかったのです。そこで、本業と直結するISO 39001をきっかけにこれまでの取り組みを整理しようと考え、導入を決定しました。また企業としてPDCAがしっかり回っていることについて内部監査だけでなく、第三者からきちんと検証してもらうという狙いもありました。
ISO 39001認証取得までの流れをお聞かせください。
グループ全体でのスピーディな認証取得を目標としました。
キックオフは2012年2月で、コンサルタントのNKSJリスクマネジメントを交えてミーティングを開催し、乗務員にも取り組みを周知しました。事務局は、私が管理責任者を担当し、加えて3社各社から1人ずつメンバーを選任、計4名としました。ISO 14001やISO 9001の仕組みを構築した際は、分野ごとにメンバーを設定していたのですが、担当者によって取り組み姿勢に温度差が大きかったため、分野別ではなく各社で責任をもって取りまとめるという仕組みにしました。また、書類が増えることを避けるために、ISO 14001、ISO 9001と同じスキームで進められる部分を統合しました。PDCAがしっかり回る仕組みを改めてつくりたいという経営者の強い思いもあり、短期間で集中して進めることで、10月には認証を取得することができました。
2012年 | 2月 | 導入セミナー |
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ISO39001事務局立ち上げ | ||
3月~4月 | 初期レビュー | |
5月 | 行動計画の策定 | |
5月~6月 | 文書化 | |
6月 | システム立ち上げの確認 | |
7月~8月 | 内部監査 | |
8月 | ファーストステージ審査 | |
9月 | マネジメントレビュー | |
10月 | セカンドステージ審査 | |
10月18日 | 認証の登録・登録証の発行 |
構築されたISO 39001マネジメントシステムの内容をお聞かせください。特に、工夫された点や、ご苦労された点がありましたら合わせてお聞かせください。
構築されたISO 39001マネジメントシステムの内容をお聞かせください。特に、工夫された点や、ご苦労された点がありましたら合わせてお聞かせください。
事故による出費はもっとも無駄ですから、なんとかして減らしたいのですが、その目的が乗務員に伝わっていませんでした。そこでISO 39001認証取得の少し前から、実際に発生した事故概要を、あえて社内に掲示することにしました。どれだけすばらしい仕組みを取り入れても、乗務員が「自分は関係ない」という気持ちを持ってしまうと、事故は減らないと考えたのです。
ISO 39001のシステム構築にあたっては、コンサルティング会社に、グループ3社の事故を日時・曜日・場所・形態・運転者年齢・発生状況別に分析してもらいました。その結果、各社で「同じような形態の事故でも特徴が異なる」、「事故発生に関して特徴的なパターンがある」などを発見できました。これまで感覚ではわかっていたことが具体的な形で見えたことで、事故をなくすために各社がやらなくてはならないことが明らかになったのです。また、それを現場に落とし込んでいくために、書類を残したり、年間ベースで計画を立てたり、PDCAを継続的に回す習慣が定着してきました。
RTS方針、RTS目標、RTS詳細目標をお聞かせください。
目標の策定とともに、PDCAをきちんと回す仕組みを構築しています。
事故の傾向は、3社で異なります。たとえば路線バスの場合だと、この場所は危険だから通らないということはできませんし、タクシーの場合は実車か回送かによってリスクが異なってきます。そこで、各社でRTSパフォーマンス・ファクターを特定したうえで、事故件数の削減目標を策定しています。それに対して、具体的な活動を実施し、内部監査による検証を行い、マネジメントレベルで今後の改善を策定し、新たなPDCAサイクルを回す仕組みとしています。
RTS目標を達成するための具体的な施策をご紹介ください。
小グループ活動の成果に手応えを感じています。
乗務員の意識啓発のための「道路交通安全方針」の掲示や、社外へのアピールとして「ISO 39001ステッカー」の掲示などを行っています。なかでも効果の高い活動として「小グループ活動」があげられます。これは、10名程度の単位でチームを結成し、実際に発生した事故を題材にした意見交換や、日常の乗務で起こったヒヤリハットなどについて話し合う活動です。小さな集団だと、全員が意見を述べやすくなります。そしてお互いの気づきも生まれてきます。たとえば勤続年数の長い乗務員と、入社間もない新人乗務員をあえて同じグループにします。そうすることで先輩は後輩に熱心にアドバイスをしますし、後輩は先輩の経験等を素直に聞き入れてくれます。そういった仕組みが自然と乗務員同士のコミュニケーションにもつながりますし、こういった日々の積み重ねが「事故削減」への大きな成果にもつながるのです。
道路交通安全方針
日立自動車交通グループは、一般旅客自動車運送事業の社会的責任と公共的使命を認識し、リスク管理、コンプライアンスの実効性確保を事業展開の大前提として、持続的な成長を目指し、さまざまな取り組みを進めています。
この一環として、当社の企業活動にともなって発生する各種の移動や輸送面の道路交通安全リスクを軽減する活動に積極的に取り組み、安全・安心で持続可能な社会の実現に努めていきます。
現時点でISO 39001導入による効果がありましたらお聞かせください。
会社全体で、事故を起こさないという意識が強くなったと感じています。
認証を取得して1年も経っていませんので、昨年との比較はできませんが、月単位で見ると事故件数が若干減少しています。また、小グループ活動のミーティングで出された意見などが、乗務員から管理職へ伝わるボトムアップ形式の伝達系統が活性化しました。なによりも、会社全体の事故削減への関心が高まることで、事故を起こさないという意識が強くなったと感じています。
ISO 39001を今後の事業にどのように活用されていきますか。今後の取り組みの目標や展開をお聞かせください。
小グループ活動が、事故を予防するための場に発展することを期待しています。
現在の小グループ活動は、事故の検証や原因の追及が多いのですが、これが事故予防のための話し合いの場になることを望んでいます。たとえば、ヒヤリハット体験の共有などによって、事故を予防するための仕組みが回り始めると考えています。
所在地 | 東京都足立区綾瀬 | |
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設 立 | 1960年9月 | |
事業内容 | タクシー部門: タクシー/ハイヤー/ジャンボハイヤー 観光部門: 観光タクシー/観光バス/観光ハイヤー 福祉部門: |
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リフト付き観光バス/リフト付き福祉バス/リフト付き福祉ハイヤー/民間救急車 乗合バス部門: AKIBAwith634/晴海ライナー コミュニティバス部門: (足立区)はるかぜ/(台東区)めぐりん/(葛飾区)レインボーかつしか/(文京区)B-ぐる/(北区)Kバス/(中央区)江戸バス |
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ISO 14001 初回登録 | 2007年7月 | |
ISO 9001 初回登録 | 2008年2月 | |
ISO 39001初回登録 | 2012年10月 |