東洋製罐株式会社様

統合マネジメントシステム運用事例 3つのシステムを1つに統合。さらに、事業に貢献する活きたシステムへ。─品質・環境・食品安全マネジメントシステムの統合運用 取締役 常務執行役員 環境・品質保証・資材本部 本部長 水戸川 正美氏

東洋製罐株式会社は、食品、飲料、生活・家庭ほか多様な分野に缶、ペットボトル、プラスチックボトル、パウチ等の包装容器を提供し、市場をリードしている。同社では、1999年以来、品質、環境、食品安全の各マネジメントシステムの導入を図り運用してきたが、各マネジメントシステムを一元化した同社独自の統合マネジメントシステム(TMS)の構築を進め、2013年7月に統合を完了し、2014年9月にJQAより「統合マネジメントシステム運用証明書※1」の発行を受けた。
東洋製罐は、マネジメントシステムの統合で何を目指し、どう活動し、どのような成果を得てきたか。取締役 常務執行役員で環境・品質保証・資材本部の本部長である水戸川 正美氏※2、同本部環境部部長でTMS管理責任者を務める高山 伸司氏、同本部環境部課長の野中 周一氏にうかがった。

(取材日:2014年12月12日)

  • ※1 統合マネジメントシステム運用証明書は、同社独自の統合マネジメントシステムの構築・運用を証してJQAが発行したものであり、JQAが提供するマネジメントシステム統合プログラムにおける統合ステージ証明書とは異なります。
  • ※2 2015年1月1日付で組織および本部長が次のとおりに変更されています。組織名:環境・品質保証・資材本部→環境・品質保証本部本部長:水戸川取締役常務執行役員→森執行役員

統合のきっかけはFSMSの構築
-もう1つ増やすだけでは負担が増すばかり

東洋製罐が、TMSを構築しようと意思決定したのは、2012年であった。TMSのトップマネジメント、中央TMS委員長を務める水戸川常務執行役員は、その経緯をこう語る。
「FSSC 22000に基づく食品安全マネジメントシステム(FSMS)の導入を検討した際のことでした。当社はすでに品質マネジメントシステム(QMS)、環境マネジメントシステム(EMS)を運用していましたが、EMSは全社での運用、QMSは事業所単位の運用と異なっており、管掌する組織系統も別々でした。そこにFSMSが加わると、現場の負担がただ増えるだけではないか、との懸念がありました」。
組織が違えば必要な人数も増え、マニュアルの書式も異なり、同様の活動を重複して行う場合も想定される。
「2つが3つになってやっていけるのか。でも逆に、ここで3つを1つにできれば、マネジメントシステムをもっと事業に有効活用できると考えました」(水戸川常務執行役員)。
東洋製罐は、FSMSの導入と3つのマネジメントシステムの統合を併せて決断、ロードマップを描き、実践に移していく。環境部の高山部長は、こう述懐する。
「マネジメントシステムに関わる作業をスリム化したいニーズは工場にもありました。でも全社展開のEMSと個別運用のQMSでは対応に違いがある。踏み出したくても2つをリンクさせる動きには、なかなかなりません。そうした中での本社の決断は、工場でも自然な流れだと歓迎されました」。
「統合の目標は、活きたシステムとして、スリムに運用すること、この2つに尽きます。それを通じて業務の改善を図り、業績向上を果たしたかったのです」(水戸川常務執行役員)。
食品に関わりの深いことを考慮して、FSMSは全社運用を進め、2012年11月に認証を取得した。現在、中央TMS運営事務局でTMSの実務に携わる、環境部の野中課長が、その後の展開を次のように紹介した。
「統合で気を遣ったのは、個別運用のQMSの全社展開です。それを行いつつ、まずQMSとFSMSを合体させ、その後EMSと合体させる段取りで進めました。統合の準備は、FSMSの構築が進んだ2012年6月あたりから進め、2013年1月には、TMSの運用に入ることができました。そして2013年7月、3規格を同時にJQAに審査してもらいました」。

環境・品質保証・資材本部 環境部  部長 統合マネジメントシステム(TMS)管理責任者 高山 伸司氏
環境・品質保証・資材本部 環境部課長 統合マネジメントシステム(TMS)事務局長 野中 周一氏

図1:TMS構築までの歩み

重要なポイントになった“コミュニケーション”

統合の道のりで、東洋製罐が最も力を注いだのは“コミュニケーション”の徹底であった。
「取り組み当初、事務局スタッフもTMSのイメージは薄く、知識も不足していました。コンサルティング会社のアドバイスも受けながら、“統合とは何か”という基本から解きほぐし、知識の獲得、イメージづくりを進め、それを本社のさまざまな階層の人たちと共有するようにしていきました」(野中課長)。
セミナーを通じて本社の部長以上の経営層に浸透を図り、続いて現場業務のキーパーソンに参加してもらう分科会を設けて、会社の本来業務とマネジメントシステムの要求事項とをすり合わせ、整理する活動を行った。
一方でTMSの対象となる、グループ会社を含めて約20におよぶ工場との情報共有にも配慮した。業務改善に取り組む工場現場に不安があっては、TMSの円滑な運用は難しいと考えたのだ。現場の不安を拭い去るため、本社の事務局との風通しをよくし、情報の行き来がスムーズに行くように、意識的に取り組んだ。工場内のミーティングの活用はもちろん、工場でTMS責任者となるスタッフと毎月のテレビ会議で議論を深め、データベースを充実させて、必要な情報へのアクセスもしやすくした。
また経営トップを交えた定期的な情報交換の場も、現場の活動を後押ししてきた。
「3ヵ月に一度、本社経営陣、部門長、全国の工場長が一堂に会する中央TMS委員会を開き、現在の活動状況や今後の対応を情報共有してきました。この場でのトップを含めた意思決定、意思表明が、各工場、本社事業部門に持ち帰られ、草の根の活動の支えとなっていきました」(水戸川常務執行役員)。

図2:TMS概念図

統合への取り組みを通じて得たもの

TMSの運用体制は、以前と比べ大きく変わった。
「品質と環境で別組織だったものが、トップマネジメント、管理責任者、QMS・FSMS統括責任者、EMS統括責任者、運営事務局、そして各事業所という6つの役割で、機能的な組織となっています。マネジメントシステムに関する作業の効率化という側面から見ると、環境パフォーマンス関連のデータ集計業務が、統合前と比較してman-hoursベースで約3分の1までスリム化できています」(高山部長)。

図3:運用体制の変遷

組織・作業のスリム化に加え、文書管理の面でも大幅なスリム化が進んだ。たとえば目標管理シートの共通化が挙げられる。 
「まず本来業務を書くことを意識づけし、それが環境、品質、食品安全、さらには労働安全にどう影響するか、一目で判定できるような仕様にしました。生産性向上の取り組みがあったとすれば、品質にも、環境にも関わる項目として〇をつける。それを現場のスタッフが判断しながら行っていくわけです」(野中課長)。
「環境のために新たに目標設定するのではない。日常業務の取り組みとして生産性を上げれば、同じエネルギー消費でも生産量が増える。トータルで見ればCO2も削減される。そういう見方を現場ができるようになることが重要です。日常業務でそのような気づきが常にあることこそ、“活きたシステム”になります」(水戸川常務執行役員)。

図4:目標管理シート

日常業務の改善にあたり、東洋製罐では、新定義の5S思考をベースに置いた。一般的に5Sは、〔整理・整頓・清掃・清潔・しつけ〕で目の前に見えているものをきれいにする、それを維持するイメージだ。東洋製罐では、〔整理・清掃・整頓・清潔・しつけ〕の順でとらえ、「モノの5S」「仕事の5S」の両面で改善を進めていく。
「2番目の『清掃』が重要で、『清掃は点検なり』の考え方となります。このアプローチが、TMSにおけるスリム化にも直結します。たとえば、毎日作る資料があるとして、それが本当に必要なのか、必要ならばどう効率化できるのか、振り返って徹底検討することで、新たな改善ポイントが見えてきます」(水戸川常務執行役員)。

議論、意見交換が、現場の取り組みを本物にする
―事業戦略に生かすマネジメントシステムを目指して

「外部審査では、木を見て森も見る、すなわち、全体と部分の両方に目配りする審査をお願いしてきました。工場ではまだTMSが十分に浸透していない部分もあり、今回のJQAの審査では、そこは確実にやっていただき、実のある指摘を受けることができました」(水戸川常務執行役員)。
工場などの現場でTMSが定着しきっていない状況は、内部監査でも確認されていた。現場スタッフには、外部審査、内部監査問わず、自らの考えをどんどん出して、積極的に議論、意見交換するよう促される。それにより、本当の業務改善のポイントを、明らかにしたいという考えがある。そして、自らの不足を認識する現場には、事務局が積極的に訪問し、対話しながらともに改善策を模索する。
「日常業務がTMSにどうつながるかを考える見方は芽生え、意識面はだいぶ向上してきたと思います。これからは活きたシステムとして実績を出していくことが大切です」(水戸川常務執行役員)。
TMSを経営手段として活用し、事業戦略の実現、業績向上に結び付けることが次なるテーマとなる。
「当社取締役社長の中山は、“Back to the Basic、今こそ基本に立ち返れ”と常々語っています。創業精神を忘れず、総合力を発揮して事業を推進することを求めているのです。今、私たちが取り組むTMSも、この考えを体現し、マネジメントシステムの基本に立ち返り、事業への貢献を目指しています。TMSの幹を育て上げ、必ずや結果を出せるようにしたいですね」(水戸川常務執行役員)。