サービスロボット活用時に知っておきたい規格 ISO 31101

本記事では、ロボットサービスを提供または検討している事業者の方々に向けて、安全運用を実現するために必要となる考え方、実施すべき内容をご紹介します。

活用の場が広がるサービスロボット

近年、日本は少子高齢化に伴う労働力不足が課題となっており、その解決策として、さまざまなサービス産業の分野でサービスロボットの活用が始まっています。

具体的な例としては、レストランでの配膳、ビルの床清掃、駅や空港での警備・目的地案内などが挙げられます。

工場で使用される産業用ロボットとは異なり、サービスロボットは公共の場、つまり一般の人々がいる環境で使用されるため、人間と共存・協力してタスクを果たせるよう安全を確保することが重要です。

サービスロボットの安全確保と関連する規格

設計・開発での安全確保

サービスロボットの製造者が考慮すべき安全性については、製品安全規格ISO 13482で規定されています。この規格では、サービスロボットの設計段階でリスクアセスメントを実施し、内在する危険源へ対応することが要求されています。

運用での安全確保

前述のように、サービスロボットが使用される用途や環境は多種多様です。さらに、産業用ロボットにかかわる作業者が安全教育の実施を義務付けられている一方、サービスロボットにかかわる人々は必ずしもロボットに関する教育を受けているとは限りません。

このため、安全なロボットサービスを実現するには、製品の安全性に加え、サービス提供事業者やロボットオペレーターが製造者からの安全情報をもとにロボットを適切に使用し、残留リスクに対応することが求められます。

その指針となるのが、サービスロボットの運用時の安全に焦点をあてた国際規格ISO 31101(JIS規格では、JIS Y1001)です。次の章では、このISO 31101についてご紹介します。

表1  サービスロボットの製品安全と運用安全に関する規格

規格 ISO 13482 ISO 31101(JIS Y1001)
対象 ロボット本体 ロボットを活用したサービス
対象者
(安全確保に取り組む組織)
製造者 サービス提供事業者

ISO 31101とは

概要

ISO 31101とは、サービスロボットを活用したロボットサービスの安全マネジメントシステム(サービス受益者や周囲の第三者の安全を確保するために実施すべきマネジメント)に関する要求事項を規定した国際規格です。この規格は2019年に発行された日本産業規格であるJIS Y1001をベースとして国際委員会で議論がされ、2023年に発行されました。

ISO 31101の対象者

ISO 31101の対象者はサービスロボットを活用しロボットサービスを提供する事業者です。規格のなかではアプリケーションサービスプロバイダと呼ばれます。具体的には商業施設やレストランなどサービスの企画、実装、提供を主体的に行い、安全性を含むアプリケーションサービスの全責任を持つ組織が該当します。

ISO 31101の構成

規格の構成は以下のとおりです。

  1. 適用範囲
  2. 引用規格
  3. 用語及び定義
  4. 組織の状況
  5. リーダーシップ
  6. 計画
  7. 支援
  8. 運用
  9. パフォーマンス評価
  10. 改善
  • 附属書A(参考)アプリケーションサービスにおける利害関係者の例と定義された用語との関係
  • 附属書B(参考)ロボットシステムプロバイダが意図したアプリケーションサービスの運用内容とロボット使用制限との関係の分類
  • 附属書C(参考)サービスロボットの使用のための情報の例
  • 附属書D(参考)運用における危険源及びその原因の例

ISO 31101はISO 9001やISO 14001と同様、PDCAサイクルの実施を基本とするマネジメントシステム規格共通の構造(HLS:ハイレベルストラクチャー)に基づいています。

代表的な要求事項

ISO 31101は組織が効率的・効果的に運営されるための要求事項を規定しています。

以下6つが代表的な要求事項とその概要です。これらを念頭にトップマネジメントを中心として組織的にマネジメントシステムを構築し、PDCAサイクルによる継続的な改善および安全なロボットサービスを提供するための運用体制を確立することが肝要です。

リーダーシップ

  • トップマネジメントを中心としたロボットサービスの安全な運用、管理、サービス受益者とのコミュニケーションに関する継続的な改善方針の確立
  • 改善方針に則り組織全体で実施する旨の宣言
    (例)提供するロボットサービスの安全方針を確立する

マネジメント

  • ロボットサービス安全マネジメントシステムの確立、実施、維持および継続に必要な資源の決定、提供
  • ライフサイクルで必要なプロセスの計画、実施、管理
    (例)業務遂行のために必要な予算や適切な人材を決定する

計画

  • リスク分析およびリスク評価を含むリスクアセスメントの実施
  • ロボットサービスに関する安全目標の確立
    (例)ヒヤリ・ハットの発生件数など、リスクアセスメントの結果に応じた安全目標を設定する

力量

  • 業務に関連する人に必要となる力量の決定、確保
    (例)教育訓練を実施する

コミュニケーション等

  • 関連する内部および外部利害関係者のコミュニケーションに必要なプロセスの確立、実施、維持
  • 受益者および関係者に対する危険源や業務において引き起こされるかもしれない危険事象の伝達
    (例)日々のロボットサービスに関する業務で発生したヒヤリ・ハットを組織内で共有し対応策を検討する

パフォーマンス評価と改善

  • 適用した方策の有用性を確認するための定期的な評価
  • 業務の監視、業務の検証および不十分な点の識別、向上を目的とした仕組みの確立
  • 業務および運用、管理全体のパフォーマンス向上のために必要な改善措置の実施
    (例)安全目標に掲げたヒヤリ・ハット件数が達成されたかを評価し、必要に応じて改善案を検討する

図1 PDCAサイクルと対応する規格の章

ISO 31101に基づく運用のメリット

ISO 31101が発行され、ロボットサービスを提供する事業者が考慮する運用時の考え方が示されました。要求事項に基づくマネジメントシステムの構築は、ロボットサービスの安全性を考慮した事業者であることをサービスの運用者、受益者および第三者に訴求することを可能とします。

また、リスクコミュニケーションを通じて事故やヒヤリ・ハットの情報が製造者に共有されることにより、市場全体での安全性が向上し、質の高いサービスが提供されることが期待されます。

今後、社会的なニーズがますます高まるサービスロボットの社会実装に向けて、ISO 31101はサービスプロバイダ側の運用を支える仕組みであり、企業価値を向上させる必要条件になると考えられます。

当機構では、サービスロボットの安全評価・認証や、さまざまな装置に搭載される機能安全の評価・認証をはじめ、規格解説セミナーや規格要求事項に基づいたテクニカルミーティングのサービスを行っています。

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