情報誌 ISO NETWORK Vol.20

[特集]これからの環境マネジメントシステムを考える 第二部 ISO 14001を自主的に利用し競争力を強化している事例

[アスクル株式会社]環境マネジメントシステムで環境中期計画の進捗を管理する 環境マネジメント 部長 ISO事務局長 稲葉千昭氏 環境マネジメント マネージャー 渡辺英史氏

「利便性のアスクル」から「環境のアスクル」へ

環境をテーマに、カタログも変わった 環境をテーマに、カタログも
変わった

アスクルは、オフィスに必要なモノやサービスを「明日届ける」通販ビジネス会社だ。専用のカタログ(紙媒体あるいはWEB上)から選んだ商品をファックスもしくはインターネットを使って注文すると、当日または翌日には届く(沖縄・離島および一部の山間部エリアを除く)。創業以来、流通における無駄を徹底的に省き、サービスの効率化を図る「利便性のアスクル」で顧客の信頼をつかみ、業績を伸ばしてきた。

2009年5月、アスクルは2012年までのCO2排出量や資源消費量の削減の達成目標値を開示し、環境経営への取り組みをより鮮明に打ち出した。「利便性のアスクル」から「環境のアスクル」への転換を目指したのだ。

なぜ「環境のアスクル」なのか。最大の要因は、顧客の環境意識の急速な高まりだった。

アスクルは、メーカーから一次問屋、二次問屋、小売店を通して顧客に届くまでの、従来の長いバリューチェーンを短くすることで、コスト面で顧客に貢献すると同時に、環境負荷低減にも貢献してきた。ところが、顧客の環境意識の急速な高まりにつれて、新たな課題に直面した。

その象徴が「アスクルを注文するとダンボールや緩衝材を片付ける手間がかかる」という顧客の声だ。従来から商品を届ける際のダンボールや紙緩衝材の減量化には取り組んでいたが、それらは届け終わった時点で顧客先では不要なものとなり、その処分は顧客の負荷となっていた。毎年実施している顧客アンケートでもそのような声は上位になっており、物流上のさまざまな課題が顧客サイドからも顕在化してきたのだ。

アスクルの企業理念は「お客さまのために進化する」であり、環境のトップランナーを目指すアスクルとして、効率化イコール環境負荷低減という抽象的な概念だけでは顧客の支持を得ることが難しくなってきた。「お客さまの環境意識の変化」に対応するための進化が、CO2排出量と資源消費量の削減で目標値を立て、その達成を経営の最重要課題に据える環境経営の取り組み強化だった。

環境中期計画の策定と「エコプラットフォーム」

環境中期計画では、2012年5月期までに配送ではCO2排出量-10%・資源消費量-30%、事業所ではともに-30%(いずれも2008年度比・原単位目標)を達成するという明確な目標値を設定した。アスクルは、2008年度の環境報告書の外部審査などで、「短期的な目標値は設定されているが、中長期計画に関する目標値が不明確である」といった指摘を受けた。環境中期計画はこれらの指摘を受けて策定されたものだ。

環境中期目標
項目 基準年度 2010年
5月期
2011年
5月期
2012年
5月期
CO2排出量の削減 事業所 2008年
5月期
原単位※1
-10%
原単位※1
-20%
原単位※1
-30%
配送 2010年
5月期
  • 見える化
  • 目標値設定
原単位※2
-5%
原単位※2
-10%
資源消費量の削減
(資材投入量+廃棄物量)
事業所 2008年
5月期
原単位※1
-10%
原単位※1
-20%
原単位※1
-30%
配送 2008年
5月期
原単位※2
-10%
原単位※2
-20%
原単位※2
-30%
  • 原単位の考え方
  • ※1 事業所における環境負荷発生量÷売上高
  • ※2 配送に伴う環境負荷発生量÷お届け数

この目標を達成するため、アスクルでは従来の流通プラットフォームを、より環境に配慮した「エコプラットフォーム」として進化させることを目指している。そして、事業活動を、「仕入・調達」「開発・選定」「社内管理」「販売・配送」「回収・循環」の5つの段階に分け、それぞれの段階で取り組むべき環境面の重点テーマを「5つの約束」として設定した。

この「約束」を実現するため、個々の部門の年度目標と環境マネジメントシステム(以下、EMSという)の目的・目標との整合を図り、EMSの仕組みを通じて推進している。具体的にはそれぞれの達成度を3ヵ月に1回レビューし、PDCA(計画・実行・検証・見直し)のサイクルを回している。

「EMSが有効な手段であるところは、ある結果が出たとき、それが目標に対してどのような水準にあるか客観的かつ明確に分かる点。評価の相対的な価値が把握でき、横並びで進捗管理をする場合などに非常に有効」と稲葉部長。

渡辺マネージャーは「ISO 14001は環境中期計画の進捗を管理するツールとして、うまく機能していると思う」と言う。

エコプラットフォームへとつながる「5つの約束」約束1:「仕入・調達」お客様の購買分析を精微化し、サプライヤー様との情報共有と連携により、環境負荷の少ない効率的な調達を推進します。  約束2:「開発・選定」お客様の環境に配慮した安心・安全な製品をご提供します。 約束3:「社内管理」業務の効率化を推進し、省エネルギーや省資源によるコストの削減を図ります。 約束4:「販売・配送」サービス進化と環境優位性の両面を常にセットで考え、環境負荷の少ない商品の販売・配送サービスをご提供します。 約束5:「回収・循環」回収サービスの拡大・充実を図り、資源循環に向けて活動の輪を広げていきます。エコプラットフォームへとつながる「5つの約束」

環境経営からCSR経営へ、そして持続可能な経営へ

こうした取り組みのもと、たとえば開発・選定のプロセスでは、アスクルカタログで「経費節減と環境配慮を両立させる商品」として「半透明ゴミ袋 薄手タイプ」「電球型蛍光ランプ」などの提案につながっている。販売・配送プロセスにおいては、受注をファックスからWEBに切り替えていくことを進めている。東京23区内ではすでに商品配送時の梱包資材の最少化を目指したECO-TURN配送も始まっている。また、すべてのサプライヤーを対象に、アスクルの各物流センターへの納品車両の動線を検証し、発注の仕方、配送の仕方などをトータルに見直して、ドラスティックな視点で新たなシステムを構築してCO2削減に結びつけようという動きもある。

「調達システムの検証を行い、より効率的な調達を推進することは、環境負荷を削減するだけでなく、アスクルやサプライヤーにとっては調達コストの削減にもつながる」と、稲葉部長は将来的な方向性を語っている。

2008年から開始した「SOLOEL(ソロエル)」は、企業の間接材購買プロセスを最適化することを目的とする事業だが、コスト低減だけでなく顧客の購買活動におけるCO2発生量や資源消費量を最少化するサービスとしても進化が見込まれる。

顧客とのより深いきずなを結んで持続可能な成長を目指すという考えのもと、「環境」という新しいバリューを重視した経営に積極的に取り組み、利便性や価格といった従来の競争基盤からいち早く抜け出し、優位性の確立を図っているアスクル。

日経環境経営度ランキングでは、22位、10位(小売り・外食部門)とランクを上げている。「来年はさらに上位を目指したい。しかし、そうした目先の目標だけでなく2050年に向けた長期環境ビジョンづくりも、いま最終段階に差し掛かっています」と稲葉部長。

環境経営からCSR経営に、そして持続可能な経営にスパイラルアップしていこうとするアスクルの中で、ビジネスモデル進化のための関連会社を含めたコーポレート・ガバナンスの管理ツールとしてEMSのPDCAサイクルが回し続けられている。


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