情報誌 ISO NETWORK Vol.23

[ISO 50001認証取得事例]Case study 2 エネルギーマネジメントの実践で顧客への提案力を高める

常務取締役 蟹江龍氏 常務取締役 蟹江 龍氏

パルコをはじめとする商業施設の開発サポート、設計、施工、監理、運営サポートなどの事業を手がける株式会社パルコスペースシステムズは、2011年8月12日、ISO 50001の認証を同業界で初めて取得した。クライアントに対して環境対応の提案を行う一方で、自社の省エネ活動のために本社部門でISO 50001の認証を取得したねらいと経緯について、常務取締役の蟹江 龍氏と総務人事部長の鈴木 一樹氏、総務課長の長山 峰大氏にうかがった。

社員のさらなる省エネ意識向上のために

環境や省エネに対する社会的な注目が高まるなか、パルコスペースシステムズのクライアントである商業施設のオーナーやデベロッパーのニーズも、それまでの「高品質で低価格」に加え、「環境負荷低減」「ECO」「省エネ」といった環境関連の比重が急速に高まってきた。こうしたニーズに応えるため、同社はLED照明などのプライベートブランドの照明器具を提案する「P’es Lighting拡販プロジェクト」、施設の省エネ化を成功報酬方式で提案する「ミニESCO/省エネチューニングプロジェクト」などを推進している。

こうした活動の一方で、同社は「チーム・マイナス6%」や「チャレンジ25キャンペーン」への参画や、環境社会検定試験(eco検定)の受験支援など、自社での省エネ活動にも積極的に取り組んできた。省エネを提案する立場の会社として、まず社員一人ひとりの行動が省エネに基づいたものでなければ、説得力のある提案とはならないと考えたからだ。

ISO 50001の認証取得は、さらなる社員の意識向上と継続的な改善を行うことを目的に導入した。

「お客さま、テナント、利用者の方々や地域社会などステークホルダーへの責任を果たすため、当社はまず安全を確保することが重要と考え、品質マネジメントシステムISO 9001の認証を取得しました。環境マネジメントシステムについてもかねてから検討していたのですが、このたびエネルギーに特化した国際規格が発行されるということで、ISO 50001に注目し認証取得にチャレンジすることにしました」。蟹江常務はそう語る。

資料:節電ポスタープロジェクト

資料:「○●スイッチ」プロジェクト

社員全員参画の仕組みをつくる

認証取得の取り組みは、総務人事部総務課が事務局となって進められた。2010年12月にコンサルタントとともに準備を開始し、3月23日にキックオフ、4月1日に運用を開始した。

同社には本社のほか20数拠点の事業所(主にパルコの店舗内)があるが、まずは照明や空調が独立しており電力使用量の管理がしやすい本社事業所を登録範囲とした。

省エネルギー目標は、過去3年間の平均電気使用量を基準値とし、2015年度に照明・コンセント電力で85%以下、空調用電力で95%以下を目指すこととした。2011年度は照明・コンセント電力で基準値に対し約12%、空調用電力で約3.5%の削減を目標とした。

社員への教育やマネジメントレビュー、内部監査を経て、7月上旬に1stステージ審査、8月初めに2ndステージ審査を受審し、8月12日に認証取得となった。

東日本大震災の影響による、社会全体の節電意識の高まりもあり、2011年度は、当初目標を大幅に上回る成果が達成できる見通しだ。

「ISO 50001導入の効果は、目標設定と達成状況が定量的に見える化できたことです。自分たちの取り組みが具体的な数値として結果になって現れると誰でも張り合いがもてますし、もしできないことがあればそれもガラス張りになることで、課題解決への意識も高まります」(蟹江常務)。

総務人事部長 鈴木一樹氏 総務人事部長 鈴木 一樹氏

同社が認証取得にあたり注意したことは、通常業務に大きな負担をかけないようにすることだった。このため、日常的に行っている省エネ活動がISO 50001に直結するような仕組みづくりと社員へのわかりやすい説明に力を入れた。

「総務課ではこれまでもクールBiz、ウォームBizなどの活動で、効果測定として電気使用量を測定してきたので、ISO 50001が要求する測定、分析は大きな負担ではありませんでした。ただ、ISO 50001では社員全員が当事者であり、一人ひとりの参画が求められます。このため社員からいかに理解と協力が得られるようにするかに配慮しました」(長山課長)。

かつてISO 9001の改善活動で品質マニュアルを簡素化することで周知、浸透した経験を生かし、コンサルタントの協力を得てISO 50001のマニュアルも簡素で取り組みやすいものにした。また、ISO 14001の実績がなかったため、環境マネジメントシステムの基本から社内に浸透させる必要があったが、コンサルタントに依頼して社内研修を行うとともに、事務局からイントラネット上にニュースレター「ISO 50001 REPORT」を随時掲載して、社員の意識向上を図った。2011年8月までに20号を数えるレポートの内容を見ると、運用開始以来の月次電気使用量や、ISO 50001で知っておくべきポイントなどがわかりやすく表現されている。

総務課長 長山峰大氏 総務課長 長山 峰大氏

パルコスペースシステムズならではのユニークな取り組みとして「スーパーかえるデー」の実施がある。これは毎週水曜日をいわゆるノー残業デーにするものだが、同社ではこの夏、試験的な取り組みとして帰宅時間を通常より2時間早い16時に設定したのだ。これにより、電力消費量が通常日より23%もカットできるだけでなく、社会的要請である夕方のピーク電力のカットにも貢献できた。同社は全員ノー残業を達成した週は福利厚生のレクリエーション費を上乗せするインセンティブも実施し、クライアントや取引先の理解を得ながら、9月第一週まで水曜日は7週連続全社員16時帰宅の記録を継続している。

自社の経験をクライアントへの提案に生かす

「今回の認証取得は、当社にとってまだ一つの区切りに過ぎません。今後エネルギーマネジメントを継続的に運用し改善を繰り返すことで初めて当社の価値向上に寄与できるものと思います。また、これは規格の要求事項を超えた活動になりますが、次のステップとして、ISO 50001で学んだエネルギーマネジメントの経験をクライアントへの提案に生かしていきたいと考えています」(蟹江常務)。

パルコスペースシステムズは、ISO 50001を、現在実施している照明や設備メンテナンスの省エネ提案活動をプッシュする強力なツールにしたいと考えている。同社が業界初のISO 50001認証取得したことは新聞等でも報じられ、クライアントからの問い合わせが相次いだ。こうしたPR効果だけでなく、クライアントとの商談やプレゼンテーションをする際も、自社の省エネ活動がISO 50001に裏づけられたものになったことで、より説得力の高い提案ができるようになったという。今後は、こうした成果を既存顧客だけでなく新規顧客にもアピールし、営業力がいっそう強化されることも期待している。

「ISO 50001の社会的な認知度はまだあまり高くありませんが、今後はISO 9001やISO 14001のように、世界で通じる共通言語として普及してほしいと思います。これからの、官公庁や認証機関など関係各所の普及啓発にも大いに期待しています」。蟹江常務はそう締めくくった。

株式会社パルコスペースシステムズ