情報誌 ISO NETWORK Vol.23

JQA Business Frontline 動き出したエネルギーマネジメントシステムの国際規格、ISO 50001 エネルギー使用状況を可視化し、パフォーマンス改善を図る 審査事業センター環境審査部 部長 小笠原康治 審査事業センター環境審査部 参与 三﨑敏幸

改正省エネ法および温対法の施行などエネルギー管理が強化されていたところに、東日本大震災後の電力供給力の低下への対応が求められる今、エネルギーマネジメントに対するニーズが一段と高まりを見せています。こうしたなか、2011年6月にエネルギーマネジメントシステムの国際規格、ISO 50001が発行されました。今まさに動き出したISO 50001の特徴や期待される効果について、JQAで審査を担当する小笠原と三﨑が解説します。あわせて、すでに認証を行った2組織の取り組みも紹介します。

省エネの実践ツールとして、さまざまな組織で利用可能

エネルギーマネジメントは、地球温暖化問題と資源枯渇の脅威、それに関連するエネルギー価格の不安定化などによって、組織の社会的責任(SR)のトリプルボトムライン(環境・社会・経済)のすべてに関わる重要課題となっています。

こうしたなか、新しいエネルギーマネジメントシステム(EnMS)の国際規格、ISO 50001が、「エネルギー使用および効率を定量的に可視化し、業務や組織体質の改革などを通して、エネルギーパフォーマンスの改善すなわち省エネルギー、エネルギーコスト削減を実現する」ことを意図して発行されました。

ISO 50001の最大の特徴は、エネルギーパフォーマンスの改善に焦点が当てられていることにあります。そのため、業種や規模を問わず、あらゆる組織が、エネルギーを管理し、エネルギーパフォーマンスを継続的に改善していくことに利用できる省エネルギーの実践的なツールと位置づけることができます。

ISO 50001の要求事項は、「エネルギーパフォーマンスの把握」を行うことによって、「エネルギーパフォーマンスの改善」を図る仕組みが盛り込まれています。

エネルギーパフォーマンス把握のために、ISO 50001ではエネルギーを著しく使用する設備を特定する「エネルギーレビュー※1」の実施、パフォーマンス改善の基準値となる「エネルギーベースライン※2」の設定、改善を評価するための「エネルギーパフォーマンス指標※3」の設定を要求しています。

この3項目を組み合わせることで、組織はエネルギーパフォーマンスを具体的データ、定量的データに基づいてチェックする仕組みを形成します。そこでエネルギーに関する課題を抽出し、マネジメントシステムとしてPDCAを回し、設備のエネルギー効率向上や組織の業務改善を進めていくことになるのです。そこには、設備のメンテナンスなど運用・保守によるエネルギーパフォーマンスの改善に加えて、施設の企画・設計の段階から使用エネルギーを抑制するように、調達面でも配慮するという、源流管理によるエネルギーパフォーマンスの向上という考え方が含まれています。

  • ※1 エネルギーレビュー:
    自組織のエネルギー使用を過去・現在・未来に分けて測定分析し、著しいエネルギー使用の設備や装置、システムを特定すること。
  • ※2 エネルギーベースライン:
    エネルギーパフォーマンスの変化を計測するために、適切なデータ期間をとってエネルギー量を測定し作成した基準値のこと。
    例えば京都議定書の基準値である1990年のデータ、改正省エネルギー法の基準となる前年度データなどを、絶対値または原単位で基準値としその後の変化の根拠とする。
  • ※3 エネルギーパフォーマンス指標:
    エネルギーパフォーマンスの監視測定をするために定めた評価指標のこと。
    例えば前年度からの活動で実質的に削減した量(kL/t、kWh/kL、km/L、L/GJ)や、販売高あたりのエネルギー消費量(kL/万円)、従業員あたりのCO2排出量(kg-CO2/人)、生産ラインあたりのエネルギーコスト(TJ/億円)など。

可視化によるエネルギーパフォーマンスの改善

それでは、ISO 50001の活用は、組織にどのような効果をもたらすのでしょうか?

まず、組織のエネルギー効率向上のための活動状況が、具体的、定量的なデータとして可視化されるため、組織の個々人が意識を高めて省エネを具体的にイメージしながらアクションを起こすきっかけにすることができます。ムリ・ムダ・ムラを解消する、より積極的な業務改善推進のツールとしての活用も期待されます。例えば、ものづくりにおける省エネだけでなく本社などオフィスの節電でも、空調や照明での節減はもちろん、人の移動、物流の効率化、在宅勤務の導入などによって業務スタイルを変化させて、さらにコストダウンを図るといった取り組みまで視野に入れることが可能になります。

また、エネルギーパフォーマンスを設計・調達段階からレビューすることによって、エネルギー消費資産の有効活用とプロセス改善が進み、ムダのない投資が進められます。

エネルギーの使用状況を定量的に把握することは、他の環境問題への取り組みにも好影響を与えます。改正省エネ法※4や温対法※5への対応に加え、温室効果ガス排出量削減や排出権取引の準備にもなります。

さらに、法規制への対応だけでなく、ISO 50001によってエネルギー管理を自主的に推進し高度化することにより、エネルギー供給やコストなどのエネルギーに関するリスクを事前に検討することができ、エネルギーリスクを回避することにつながります。

  • ※4 改正省エネ法:
    1979年制定の「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)は、業務部門と家庭部門におけるエネルギーの使用の合理化をより一層推進することを目的に、2008年に改正された。それまでの工場・事業場単位のエネルギー管理から事業者単位でのエネルギー管理に規制体系が変わり、事業者全体の1年間のエネルギー使用量(原油換算値)が合計して1,500キロリットル以上であれば、そのエネルギー使用量を事業者単位で国へ届け出て、特定事業者の指定を受けることになった。
  • ※5 温対法:
    地球温暖化防止への国際的な動き、「気候変動枠組条約」を踏まえ、これを推進するための「地球温暖化対策の推進に関する法律」として、1998年に制定された。2005年改正では、企業の温室効果ガス排出量の公表が規定された。

ISO 50001とISO 14001による相乗効果

ISO 50001はISO 14001と一体的に運用することで、新たな相乗効果も期待できます。

まず、ISO 50001とISO 14001の規格構成には共通点が多く、そのためISO 14001登録組織は、比較的容易にISO 50001を導入でき、エネルギーの側面を強化した環境マネジメントシステムとして統合して運用することもできます。

さらにISO 14001登録組織がISO 50001を導入することで、「データの可視化に基づくパフォーマンスの改善」という取り組みを、化学物質管理や廃棄物管理など他の環境側面にも水平展開することができます。この結果、既存の環境マネジメントシステムのもとでは法規制遵守を起点に「〜を制定する。〜を実施する」といった、システムのプロセスに重きをおいた抽象的な取り組みにとどまっていた組織が、ISO 50001の導入によって「〜を、いつまでに、どのレベルにする」といったパフォーマンスを重視する取り組みに活性化する効果も期待できます。また、源流管理を徹底し、中長期的な視点、将来志向の視点に立った取り組みも強化されます。

このように、ISO 50001の活用は、省エネルギーとそれに伴うコストダウン、エネルギーリスクの低減といった効果だけでなく、エネルギーパフォーマンスの改善に基づいた強化版環境マネジメントシステムを構築するのにも役立つのです。

今後も、さまざまな組織の環境側面の中でエネルギーの使用、消費が重要なものであることは間違いなく、ISO 50001による早期の取り組みが組織の競争力を高めるものと考えられます。

JQAでは、2011年6月の規格発行と同時に審査を開始し、GHG 排出量検証など関連サービスで培った経験を生かし、受審組織の業態や特徴に応じて、過大な負担にならないような審査手法を開発しています。次のページでは、認証取得事例として、ISO 14001の活動を生かして認証取得に至った組織と本社組織での省エネ活動について認証を取得した組織の取り組みを紹介します。

ISO 50001認証取得事例


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