情報誌 ISO NETWORK Vol.24

登録企業・組織紹介第7回 東北交通機械

IMSに日常活動を関連付け現場への浸透図る 鉄道車両や関連設備の開発・設計・施工・検査・修繕を一貫して手掛けるライフサイクルエンジニアリング企業を目指し、経営改革に乗り出した東北交通機械。品質・労働安全衛生・環境それぞれのマネジメントシステムを一本化し、昨年12月にはIMS(統合マネジメントシステム)運用証明書を取得した。改革に欠かせない現場へのシステム浸透を図ろうと、IMSに対する意識の共有化やIMSへの日常活動の関連付けに重点的に取り組んだ。

矢口 弘志 社長 矢口 弘志 社長

「経営改革」を旗印に経営者がいくらマネジメントシステムを整えようとも、その意義が現場に理解されないようでは、また運用が根付かないようでは、話は始まらない。東北交通機械はまさに、そこに力を傾けてきた。

東北交通機械はJR東日本グループの一員で、鉄道車両の検査・修繕・改造や関連設備の設置などを手掛ける。車両や設備の開発から修繕までを一貫して担うライフサイクルエンジニアリング企業を目指し、IMSの運用を通じて経営改革に取り組む。

目標に向かって業務改革 IMSをツールとして活用

代表取締役社長の矢口 弘志氏は「目標を達成するには、旧態依然とした仕事の仕組みや進め方を、みんなで変えていく必要があります。それには、IMSを改革のツールとして利用しようという意図を、東北6県に散らばる現場と共有することが不可欠でした」と振り返る。

現場に意図を理解してもらおうとの思いから、IMSの「I」には「Integration(統合)」という本来の意味に加えて、「Innovation(革新)」という別の意味も持たせた。社内の呼び名はつまり、統合・革新マネジメントシステム。まず呼称の工夫で、IMSの運用で経営改革を果たすという意識の共有を図った。

IMSに基づく日常の活動を社内に展開していくうえでは、テレビ会議システムを活用し、本社と広い範囲に散らばる現場を結んで顔の見えるコミュニケーションを実現した。

こうしたコミュニケーションツールを活用して現場に浸透させていったものとしては、プロセスネットワーク関連図がある。これは、IMSの運用ではプロセス相互の相関に対する理解が欠かせないことから、それを1枚のフロー図にまとめたもの。プロセス管理を主体にするマネジメントシステムでは、その仕組みを「見える化」するという意義がある。

意識の共有化と並んで重点を置いたのは、各現場でIMSを無理なく運用できるように、現場単位の日常活動をIMSに基づく活動に関連付けることだ。

矢口社長は語る。「小集団活動やTQC活動、提案活動など、日本流の経営管理手法に基づく現場単位の日常活動を、IMSにうまく関連付けようと考えました。そして、それにはまず、業務実態に見合う現場の言葉でシステムを構築する必要があると判断しました」。

「環境側面」を言い換え システムに現場の言葉を

「現場の言葉」の一例として矢口社長が挙げるのは、「環境リスクアセスメント」という言葉だ。ISO 14001の要求事項に登場する「環境側面」という言葉をこう言い換えた。「『環境側面』という言葉は現場では馴染みがないことから、この言葉を用いています。『リスクアセスメント』なら労働安全衛生マネジメントシステムの中で用いてきた言葉なので、現場に抵抗はありませんでした」(矢口社長)。

そのうえで、リスクアセスメント活動に現場で無理なく取り組めるよう、現場単位のKY(危険予知)活動や提案活動をそこに関連付けた。

ホワイトボード

KY活動は、図のようなホワイトボードを現場に持ち込んで、どのような危険が潜んでいるか、想定される内容を作業前に書き込ませたうえで、作業後に一連の作業を振り返った結果を書き込ませるというものだ。「労働安全衛生」の観点から取り組んできた活動を見直し、「品質」「環境」という2つの観点を加えたほか、作業後のミーティングを充実させた。

この活動によって、現場に潜むリスクとその低減・回避策に関して従業員同士が幅広く議論する場が確保される。それは自ずと、IMS上のリスクアセスメント活動に結び付いていく。

リスクアセスメント活動の結果として作成する評価票は、日常活動として取り組んできた提案活動にもプラスの方向に作用している。

矢口社長は明かす。「評価票を作成するときには、さまざまなリスクを想定する一方で、その低減・回避策まで考えます。それは、改善提案に結び付きます。従業員全員が結果として提案活動に参加することになって、改善提案の件数はこの3年で約4倍に増えました」。

東北交通機械では、品質・労働安全衛生・環境それぞれのマネジメントシステムのISO規格を、「リスクの低減・回避を図るリスクマネジメントシステムの規格」と認識していた。3つのシステムをIMS として一本化することは、同社にとってはリスクの低減・回避を効率的に図る仕組みづくりを意味していた。

改革に有効か審査で検証 評価・改善の指摘生かす

同社がJQAでIMS審査を受けた理由を「経営改革に有効なシステムとしてIMSが運用されているのか否かを、第三者の目で検証するのが狙いです」と矢口社長。審査の中で指摘された評価点や改善点はともに、その後の改革活動に生かす。「評価点は水平展開を図る一方、改善点の是正に取り組んでいます」(矢口社長)。

現場と一体になって、品質・労働安全衛生・環境それぞれのマネジメントシステムを一本化したことで、システムの運用上も経営上も、さまざまなメリットを見込むことができるという。

東北交通機械株式会社

矢口社長はシステムの運用という観点から、まずこう指摘する。「マネジメントシステムの簡素化によって、推進委員会の運営や内部監査やマネジメントレビューの実施に関する運用ロスを減らせます。また、定期・更新審査では審査工数を減らせることから、維持管理コストの削減にも結び付きます」。

経営の観点からは、経営基盤の強化につながるとみる。「リスクの低減・回避を効率的に果たせれば危険事象の発生は抑えられます。それによってコスト削減を図れれば、結果として企業活動のパフォーマンスを上げることができます。一方、経営への理解が現場にも浸透することは、リーダ―クラスの人材育成や組織の一体感醸成に役立つのではないかと期待しています」(矢口社長)。

2011年の年頭あいさつで矢口社長は「IMS元年」を宣言し、その構築・運用に向けた具体化の準備作業に入った。ところが3月には、東日本大震災に見舞われ、作業の中断を余儀なくされた。その後、復旧のめどが立った段階で作業を再開し、年内ぎりぎりながら、IMS運用証明書を取得するに至った。

明けて2012年――。本格運用に取り組む今年は「経営改革元年」と位置付けることができそうだ。

IMS運用証明書取得までの経緯
2009年 12月 ISO 9001認証、全社で取得
2010年 6月 OHSAS 18001認証、全社で取得
12月 ISO 14001認証、全社で取得
IMSプロジェクトキックオフ
2011年 3月 東日本大震災
4月 IMS推進本部設立。IMSマニュアル作成
5月 IMSマニュアル説明会開催
5月~ IMSパトロール実施※1
IMSKY(危険予知)活動実施
IMS5Sコンクール開催
6月 IMS内部監査員養成セミナー受講
9月 TKK(東北交通機械)IMSフォーラム開催※2
10月 IMS内部監査・マネジメントレビュー実施
11月 IMS審査
12月 IMS運用証明書取得
  • ※1 IMSパトロール:
    IMSを活用して、現場の課題・問題点を見える化、改善・改革する現場第一線からのIMS改革活動。
  • ※2 TKK(東北交通機械)IMSフォーラム:
    毎年JRおよびグループ企業各社が安全に関する討論を行う場。2011年から名称をIMSフォーラムに改めIMSに関する議論を盛り込む。

東北交通機械株式会社の概要

所在地 宮城県仙台市
設 立 1967年4月1日
資本金 7,200万円
従業員数 788名
業務内容 鉄道車両および部品、駅などの設備機械の開発・設計・施工管理、保全業務全般
ISO 9001初回登録 2000年2月4日
OHSAS 18001初回登録 2010年6月4日
ISO 14001初回登録 2010年12月17日
IMS運用証明書取得 2011年12月22日