情報誌 ISO NETWORK Vol.24

規格情報 SR10(社会的責任マネジメントシステム) 第三者認証を前提に要求事項を明確化

JQAが加盟しているIQNet(国際認証機関ネットワーク)が昨年12月、社会的責任に対する第三者認証の規格として「SR10」をスタートさせました。社会的責任に関するガイダンス文書「ISO 26000」との関係など、「SR10」の概要を紹介します。

SR10は、社会的責任に関するガイダンス文書として定められたISO 26000のコンセプトを踏まえた社会的責任マネジメントシステム規格です。

SR10の最大の特徴は、トップマネジメントが社会的責任を果たすという観点で意識すべきポイントを、利害関係者に関して組織が満たすべき要求事項という形で明らかにした点です。

もともとISO 26000が第三者認証を前提にしないガイダンス文書の形式に留められたのは、主に次のような考えから、といわれています。

  1. 社会的責任の概念が発展途上で、「ここまでやれば良い」という要求事項を決めるのは望ましくない
  2. 社会的責任を果たすことに対する将来の取り組みやイノベーションを妨げずに、進展・促進を図るべき
  3. ガイダンス文書を、利害関係者との対話を通じて組織自らが学び取るためのアドバイスやヒントにする
企画・推進センター 事業推進部<br>特別参与 三神 徹 企画・推進センター 事業推進部
特別参与 三神 徹

ところが、ISO 26000が示した方向性はあまりに広範にわたるもので、組織にとって利用しにくいのが実情でした。そこで、SR10では利害関係者を9つに絞り込み、それぞれに関して組織が果たすべき要求事項を分類・整理することで、ISO 26000のコンセプトを、現実の組織運営に適用しやすくしたわけです。

IQNetでは今後、SR10技術諮問委員会を設置し、規格を運用しながら必要に応じて、その仕様や認証スキームの改定に取り組んでいくことになっています。

利害関係者を9つに分けそれぞれに要求事項を

SR10で定めている利害関係者は次の9つです。

  1. オーナー、株主、投資家
  2. 従業員
  3. 顧客、ユーザー、消費者
  4. 製品供給者、サービス提供者、パートナー
  5. 提携者および協力業者
  6. 競合者
  7. 政府
  8. 地域共同体および社会
  9. 環境

具体的な要求事項はこれら9つの利害関係者ごとに定められています。「従業員」を例に取れば、次のような事項があげられています。

  • 不当差別禁止
  • プライバシーの権利
  • 強制労働
  • 児童労働
  • 安全衛生
  • アクセス可能な環境
  • 結社および交渉
  • 労働条件および賃金
  • 雇用契約
  • トレーニング、雇用可能性およびキャリア開発
  • 仕事と生活の調和
  • 従業員の尊厳の尊重

ISO 26000では約400項目にのぼる「~することが望ましい・~したほうが良い(Should)」という点が記載されていました。SR10はこれらを9つの利害関係者ごとに分類・整理したうえで、「~しなければならない・~とする(Shall)」に置き換えています。

ただし、関連する規格認証を得ている場合には、審査段階で自ずと「適合」とみなされる箇所も生じます。

一つは、「従業員」で規定されている「安全衛生」。OHSAS 18001の認証を得ている場合は、関連する要求事項が「適合」とみなされます。もう一つは、「環境」。ここで規定されている要求事項は、ISO 14001の認証を得ている場合も関連する部分で「適合」とみなされます。

また、SR10はISO 9001と同じようにシステムレベルでのPDCAサイクルを回す仕組みを取っています。そして、ISO 9001の第7章にあたる部分で9つの利害関係者に関する要求事項を管理する仕組みになっています。そのため、すでにISO 9001の認証を得ている組織にとっては、取り組みやすくなっています。

数多い認証取得メリット 社会に対して信頼の証に

社会的責任マネジメントシステムに関して、この規格に基づいて第三者認証を取得するメリットは、どこにあるのでしょうか。具体的には、次のような数多くの点が考えられます。

  • 利害関係者のニーズと期待を理解し、コミュニケートすることに寄与する。
  • 組織に対する評判を高め、世間のさらなる信頼を獲得することに寄与する。
  • 社会的に責任感のある組織であることをアピールできる。
  • 社会の期待を理解し、社会的責任に関するチャンスと社会的責任を果たさないことに起因するリスクを理解することで、より多くの情報量に基づく意思決定ができる。
  • 国際的レベルの社会的責任マネジメントシステムが構築可能で、既存のQMSやEMS、経営エクセレンス・モデルとの統合もしやすい。
  • リスク・マネジメントを改善できる。
  • 組織の要員のモラールと忠誠心を高めるのに寄与する。
  • 要員の労働安全衛生を改善する。
  • 要員の新規採用に寄与する。
  • 金融機関・投資家へのアクセス力を高める。
  • 顧客へのイメージアップに寄与する。
  • 資源の効果的で効率的な活用を通じ、生産性の向上に寄与する。
  • 消費者との摩擦リスクを低下させる。

利害関係者に関する要求事項が満たされていて初めて、事業継続は保証されます。第三者認証によってそれが確認できたということは、その組織が信頼できるものであることを社会に示す証になります。

SR10のような規格に基づいて社会的責任マネジメントシステムに対する第三者認証を得ようというニーズは、社会的責任に関する意識の高いEU諸国で目立ち始めています。

スペインの認証機関では5月段階ですでに16の組織を認証済みで、さらに15の組織から審査依頼を受けているといいます。また、ドイツの認証機関ではこれまですでに2つの組織を認証済みです。

IQNetに加盟する各国の認証機関は、IQNetとの間で「SR10 Agreement」を結ぶことでSR10に基づく審査・認証を実施することができます。6月段階で、37の認証機関のうち12機関がこの締結に至っています。

社会的責任マネジメントシステムに対する第三者認証に関心を示す企業は、国内でも現れ始めています。EU諸国を相手に活動を展開する組織が今後、認証取得の必要に迫られるようになることは十分に考えられます。

JQAではこうした状況を受けて、すでに審査員の養成や市場ニーズの把握に取り組み始めています。Webサイトでは、SR10に関する情報の提供に努めていきたいと考えています。