情報誌 ISO NETWORK Vol.26

特集2 ISO 9001、ISO 14001、ISO/IEC 27001の規格改定情報

規格改定情報:ISO 9001

次期ISO 9001は2015年1〜2月頃の発行に 焦点はマネジメントシステムの共通要素の採用、適用範囲の決定のための要求、サービス分野への適用の配慮、プロセスアプローチなど

次期ISO 9001発行までのスケジュール(2013年12月現在)

改定作業のスケジュール

ISO 9001の改定は、2013年6月にCDが発行された。DISの発行は遅れるという予想もあったたが、当初の予定通り2014年3月の発行が見込まれている。今後の作業が順調に進めば、FDISが2014年11月に、ISは早ければ2015年1〜2月に発行される見込みである。

次期ISO 9001の詳細が見えてくるのはDIS以降であるが、ここではCD段階でISOマネジメントシステム規格の共通要素採用による影響を中心に、想定されることや見込まれることについて述べる。

改定のポイントと審査の変更点

次期ISO 9001の要求事項は、共通要素に従って表2のような章立てになっている。この流れの中で、明らかになっている改定ポイントや審査の変更点を見ていく。

  1. ISO 9001の適用範囲を決める

    4章「組織の状況」では、ISO 9001の適用範囲を決めた根拠を明らかにするよう要求される。この適用範囲は主な商品・サービス、それらを提供する主なプロセス並びに対象に含まれる組織の事業所ということになる。

    この要求は、例えば本社を除く単体の工場での認証取得を否定するものではないが、なぜその工場のみを適用範囲としたのかを明らかにすることを求めている※1

  2. 事業プロセス管理ツールとしての使い勝手を強化

    ISO 9001は、他の規格と比較するとより事業に即したものといえるが、次期ISO 9001改定案では、トップマネジメントの関与もより強く求められるほか、プロセスアプローチの重要性が強調されるなど、事業プロセス管理ツールとして使い勝手のよさが追求されている。

    • トップのリーダーシップの強化
      5章「リーダーシップ」では、トップの関与により、組織の事業プロセスに品質マネジメントシステムの要求事項を統合する(組み込む)ことが求められる。
      組織の業務にマネジメントシステムの仕組みが組み込まれ一体化させる。これにより、二重管理を避け、効率を高め効果を求めることを意図している。
    • プロセスアプローチが要求事項に
      ISO 9001は従来から、仕事のやり方に沿ったマネジメントシステムを構築するためプロセスアプローチの考え方が採り入れられていたが、次期ISO 9001改定案では、4.4.2項「プロセスアプローチ」として要求事項に位置付けられ、重要性が強調されている。
  3. リスク・ベースの考え方

    共通要素では、マネジメントシステムそのものが予防のための活動であるとされ、リスクを基礎に置く考え方が重視されている。次期ISO 9001改定案では、6.1項「リスク及び機会への取組み」に共通要素とほぼ同じ内容が要求されている。これは、品質マネジメントシステムが、構築・計画の段階からマイナスのリスク(クレームや不良品、機械の故障など)の予防をトータルに含み込んでいることを示す。ただし、リスクの発生頻度や影響度に基づくリスクマネジメントを組織に対して義務付けるものではない。

  4. サービス業がISO 9001に取り組みやすくなる

    次期ISO 9001改定案では、従来の製造業を想定した要求事項の内容を改める方向でサービス業への配慮がなされている。これにより、今までISO 9001導入に踏み出せなかったサービス業、流通業など幅広いタイプの組織が、導入しやすくなっている。

    用語では「製品」が「商品・サービス」となり、「設計・開発」が「開発」に統一されている。要求事項では、7.1.4項「監視機器及び測定機器」が簡素化され、8.5項「商品・サービスの開発」でも、レビュー、検証、妥当性確認などの項目がなくなり、記録の義務もなくなった。もちろんこれらは、やらなくてもいいということではなく、必要な管理であると組織が判断すれば行う必要がある。

  5. ISO 9001独自の内容は主に8章「運用」へ

    これまで、ISO 9001に独特の内容として構成されていた現7章「製品実現」は、共通要素の章立てに沿って8章「運用」にISO 9001固有の要求事項として組み込まれている。

  6. パフォーマンス評価の重視

    次期ISO 9001改定案では、監視した結果を改善につなげているかが重視される。これは、9.1項「監視、測定、分析及び評価」において、データを取得し、使用する方法を決め、評価を改善にどうつなげていくのかを明示することが要求されている。ただ監視すること、データを集めることが目的化してしまう運用を避け、取得したデータをより改善につなげられるように促すものとなっている。

※1 改定後も工場や事業部単位の登録は可能だが、「品質マネジメントシステムの意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える外部及び内部の課題」「利害関係者のニーズ及び期待の理解」を考慮して決めることが新しい要求事項である。本社やサポート部署を登録範囲に入れることは条件ではないが、取引先や顧客から見るとそれらを含んだ登録の方が実態に即した形であり、より安心感を与えるものだと考えられる。

表2:ISO/CD 9001:2013の構成(赤字は固有要求事項)

セクター規格への影響

今回の改定には、セクター規格であるISO/TS 16949などで先行導入されていた考え方や要求事項が含まれている。ISO9001の改定に伴って、将来的には各セクター規格も改定が行われることになるものと思われるが、その検討はまだ開始されておらず、不明である。

JQAは、次期ISO 9001改定案(CD)をこうみている

  • 次期ISO 9001が組織に与える影響は?

    まず、今回のISO 9001の改定作業が提案されたときの注目すべき設計仕様を確認しておきましょう。「適合製品の供給能力に関する信頼の向上」が改定の目的で、原則的に規格の目的、タイトル、スコープなどは現行のISO 9001:2008から変更しないとされています。

    今回の委員会原案を見ると、すべてのISOマネジメントシステム規格に適用される共通要素の採用を除き、2008年版の目的、タイトル、スコープなどを変更しないという割には、かなり多くの変更点があるように見えます。しかしそれらの変更点の大部分は、いままで第三者からよく見えなかったブラックボックスの部分を見えるように求めているだけです。ですから現在ISO 9001を運用している組織にとって、まったく新たなアクションはほとんど要求されていないように思います。

    JQA品質審査部長
    佐々木 等

    委員会原案の特徴のひとつは、「製品」※2「設計」※3などの用語を中心に見直しが進み、サービス業やソフトウェア産業など多数の業種の組織が利用しやすいように配慮されていることです※4。しかし、このようにサービス業などへの配慮がなされている反面、例えば、委員会原案で「設計・開発」「レビュー」「検証」「妥当性確認」ということばがなくなった※5ことは、製造業においては要求事項が曖昧になっているようにも思えます。この点はこれからまだ議論があるのではないかと思っています。また、現在ISO 9001を使っている製造業の組織では、規格改定後も従来の考え方で業務を続けていただく必要があるのではないかと思います。

  • 組織が次期ISO 9001に移行するために必要なことは?

    JQAで認証を取っている組織は、次期ISO 9001への移行について、それほど特別な準備は必要ないでしょう。審査では、従来よりも明確に示していただくことが必要になる部分がありますが、ほとんどは組織が現在も行っていることですのであまり心配していません。例えばISO 9001ではマネジメントシステムの共通要素に加えて品質マネジメントシステムにプロセスアプローチの適用を要求(4.4.2)しています。これは、従来の推奨事項から要求事項に「格上げ」されました。JQAは2000年の規格改定以降、規格の条項ではなく組織の事業プロセスに沿った審査を実施してきましたので、プロセスアプローチの考えを取り込んでいる組織は特に新たな準備は必要ないと思います。また、トップマネジメントが「組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項を統合することを確実にする」(5.1.1c)という要求事項についても、移行審査のためには、品質マネジメントシステムを適用する計画段階で各要求事項がどの事業プロセス・部署で行われているかを明確にし、要求事項と組織の事業プロセス・部署との関係がわかるものを準備いただくくらいです。

    一方「リスク及び機会への取組み」(6.1)については、ISO9001の場合は文書化の要求はありませんので、システムの構築・計画段階でリスクと機会をどのように考慮されたかを確認させていただこうと思います。

  • JQAの対応は?

    現在次期ISO 9001は委員会原案段階ですので、JQAは引き続き情報収集に注力しながら、規格の目的や意図に沿った審査技術を開発していきます。例えば、今回の委員会原案には、「変更管理」「緊急時対応」「外部供給者のパフォーマンスの監視」など自動車産業のセクター規格であるISO/TS16949にも見られる考え方が取り込まれていることにも注目しています。

    また、すでにお問合せをいただいていますが、お客さまへは移行の準備のお役に立つ情報をJQA Webサイト、ISONETWORK、説明会などを通じてご提供していきます。

    なお、2013年11月に国際認定機関フォーラム(IAF)から、次期規格への移行期間は国際規格(IS)発行から3年間と正式発表がありました。

  • ※2 委員会原案では「商品・サービス(goods and services)」
  • ※3 委員会原案では「開発(development)」
  • ※4 ISO マネジメントシステムのユーザーが製造業中心から、形のないサービスなどを扱う業種に広がったことで、要求事項の表現を多くの業種・業態に見合うことばに改定された。
  • ※5 2008 年版「設計・開発」(7.3) の「設計・開発の計画」(7.3.1)「設計・開発へのインプット」(7.3.2) から「設計・開発の変更管理」(7.3.7) までは、ISO/CD 9001:2013 では表現を変えて「商品・サービスの開発」(8.5)「開発管理」(8.5.2) のa)b) c) d) e) f) に箇条書きされた部分などに受け継がれている。