情報誌 ISO NETWORK Vol.26

特集2 ISO 9001、ISO 14001、ISO/IEC 27001の規格改定情報

規格改定情報:ISO 14001

将来を見据えた事業戦略の展開に活用できる環境マネジメントシステムへ 2015年の発行を目指して改定が進行中

次期ISO 14001発行までのスケジュール(2013年12月現在)

改定作業のスケジュール

改定作業の中で、ISO 14001は2013年3月にCDが発行された。その後、検討事項が多いため2013年10月にCD2が発行された。今後のスケジュールは、DIS発行が2014年7月、FDIS発行が2015年3〜4月、IS発行が2015年5〜6月となる見込みである。

次期ISO 14001への検討はこれから本格化するため、ここではISOマネジメントシステム規格の共通要素採用による影響を中心に、今後想定されることや見込まれることについて考察する。

改定のポイントと審査の変更点

次期ISO 14001改定案(CD2)の要求事項は、共通要素に従って後述の表3のような章立てになっている。この流れの中で、現在明らかになっている改定ポイントや審査の変更点を見ていく。

  1. ISO 14001を事業戦略に活用

    この改定の意図は、ISO 14001をより事業戦略に即したものとして活用できるようにすることである。組織と事業、社会の将来像を描きながら、先を見通した戦略的なビジネス展開を行うために役立つ規格へと向かっている。

  2. 適用範囲の決定をどう考えるか

    4章「組織の状況」では、組織がISO 14001の適用範囲を決める際に、その根拠を明らかにすることが要求事項に盛り込まれた。これは組織にとってより幅広い可能性をもたらす。社会も組織も大きく変化する時代にあって、マネジメントシステムの適用範囲も必要に応じて変わっていくべきだろう。

    8章「運用」では、バリューチェーンの管理が明確な要求事項として入ってきた。適用範囲の境界を広げることで、バリューチェーンやサプライチェーンまで含むまとまった組織体で環境マネジメントシステムを構築すれば、大幅な効率化を図ることができる可能性も広がる。

    一方で、個別の組織でうまくマネジメントシステムを使い分けたいという局面では、適用範囲を絞り込んで柔軟な活用を図ることも可能である。

    いずれにしても、組織の立ち位置が明確になるので、目的意識を明確に持ってISO14001に取り組むことができる。

  3. トップダウンでの意思決定が重要

    今回の改定では、トップダウンでの意思決定が強く求められ、より組織が携わる本来のビジネスに沿うISO 14001が求められるようになった。5章「リーダーシップ」として新たに加えられている(図1)。

    トップダウンで事業への環境マネジメントシステムの活用に取り組むことにより、戦略的なビジネス展開が促進される。

    事務局への影響としては、マネジメントシステムの事業戦略的な運用を実現していくために、例えば経営企画のような機能を担う必要が生まれるだろう。

  4. リスク分析を計画立案に生かす

    6章「計画」では、組織がISO 14001を事業に展開する上で、リスク分析(リスクと機会の取組み)を行って計画の立案につなげることを要求している。

    リスクにはマイナスのリスクイメージだけではなく、チャンスの意味もある。そのため、組織のビジネスモデルを考えて環境に関わるインフラを整備するといった活動や、環境ビジネスの拡大への道を広げる方向性が出てくる。

  5. パフォーマンス重視

    今回の改定では、パフォーマンスが強く意識されている。9章「パフォーマンス評価」をはじめ、随所にパフォーマンスという用語が用いられ、従来以上にパフォーマンスをきちんと評価してコミットすることが要求されるようになった。そこでは成果を出す姿勢が明確に打ち出されており、組織は、自分たちが意図した成果にどこまで到達するかはっきりさせ、それを戦略として構築し、先を見据えたマネジメントにつなげていくことが求められる。

    組織にとっては、「とりあえずISO」を離れて、ISOを取得する意味、目標を考えながら取り組むことが、より促されることになる。

  6. 効率化の視点から

    審査のためのドキュメント作成など、時代を経て陳腐化した作業はどんどんなくせばよい。文書管理もIT時代にふさわしく、文字文書だけではなく、図版、画像、映像、デジタル情報を含む幅広い情報として管理することができるようになった。これらは、7.5項「文書化した情報」に述べられており、こういう点でも使い勝手のよい規格になることが見込まれる。

図1:環境マネジメントシステムモデル
表3:ISO/CD 14001:2013の構成(赤字は固有要求事項)

JQAは、次期ISO 14001改定案(CD2)をこうみている

自主的なイニシアチブを通じた環境遂行能力のさらなる向上を目指す

2013年4月に公表された「環境にやさしい企業行動調査(環境省)」によれば、環境課題に対応する上で重視する事項の上位に、経営活動と環境配慮行動を統合した戦略的な対応、ステークホルダーへの対応、経営責任者のリーダーシップ、組織体制とガバナンスの強化、バリューチェーンにおける環境負荷低減があげられています。次期ISO 14001は、わが国で環境課題に対応する組織が重視する考え方と同じ方向性の中で、従来からの国際規格であるISO 14001の底流に流れる考え方を踏襲しながらも、環境遂行能力のさらなる向上を目指した議論が進展しています。

JQA環境審査部長 小笠原 康治 JQA環境審査部長
小笠原 康治
  • トップマネジメントの関与

    環境に限ったことではありませんが、ISOマネジメントシステムにおける成功の鍵はトップマネジメントの関与であるといわれています。さらなる向上を目指すために、トップマネジメントのコミットメントを重視し、経営に環境活動を取り込み、意思決定を行う上での立ち位置について、経営の視点から掘下げられています。

  • 遂行能力の向上した結果は環境パフォーマンスでも計る

    現行のISO 14001では、要求事項として環境パフォーマンスについて直接規定していません。これは、環境マネジメントシステムを改善することで、その活動の結果として環境パフォーマンスが改善されていく、という考えによるものです。しかし現実には、環境マネジメントシステムは問題なく運用されているがその成果が期待通りに上がらない、という状況が見られることがあります。改定案では、環境マネジメントシステムのパフォーマンスと環境パフォーマンスの双方を扱うとしています。

  • ISO 14001独特の改定ポイント

    独特の改定ポイントとしては、ライフサイクルに配慮したバリューチェーンの管理があげられます。一般に事業活動、製品、サービスはバリューチェーンのプロセスに沿って展開されています。このため環境の改善も、組織内部に留まらず、マーケットや多様なステークホルダーが一緒になって、今までの枠組み、制度、商慣習を変えながら、全体的なイノベーションを図ることで取り組みの成果があがっています。次期ISO 14001も、そのような経験や、時代的、社会的な要請を取り込んだ規格になっています。

審査の現場で見込まれる変化とは

審査の現場では、これまで以上にトップマネジメントの意向と環境マネジメントシステムのパフォーマンス、その結果としての環境パフォーマンスを向上させる努力とが合っているかどうかが浮き彫りにされ、それらの結果がどうフィードバックされてPDCAが回っていくかが、より明らかになると見ています。

また、活動の広がり、事業活動を俯瞰した全体的な取り組みが期待される規格になったことで、例えば工場だけが認証取得している場合では、会社全体での意思決定との連動や、中長期的な経営計画での位置づけなどに、どう配慮するかが焦点になっていくでしょう。

業務改善という視点から

環境パフォーマンスを向上させる上で大事なことは、節約によるコストメリットの出る目標のみならず、事業プロセスにISO14001の要求事項を組み込み、本業の中で経営的に取り組んでいくことだと考えられます。環境パフォーマンス向上のために、事業に直結した形で課題を設定し、戦略的に、課題によっては中長期的な計画を立て、継続的な向上を見込んだ目標を立てて取り組んでいくことが重要です。例えば環境負荷低減の施策に業務改善の視点を取り入れ、評価尺度をうまく設定すれば、パフォーマンス改善に有効に働きます。IT化で業務の効率化を図ったら結果的に紙ごみが減った、節電につながったというケースがありますが、業務改善という継続的な活動が環境への好影響を生んでいる例といえます。またバリューチェーンの管理においても、ITや流通改革を活用して在庫や物流をスリム化することは、環境パフォーマンスの面でも成果を生むと考えられますし、優れた製品やサービスは社会の環境負荷低減に大いに貢献することでしょう。