情報誌 ISO NETWORK Vol.27

特集 ISO 9001、ISO 14001 2015年版発行 第一部 審査事業センター 審査技術部 次長 福田 歩 マネジメントシステム共通要素 新しいISO規格の発行を機に、より組織の実情に合ったマネジメントシステムを

共通要素※1の採用のねらい

2015年版のISO 9001、ISO 14001では、マネジメントシステム共通要素が採用され、規格の構造が大幅に変更されました。共通要素の大きな目的は、複数のマネジメントシステムの運用にあたり規格間の整合性を向上させることですが、同時に共通要素によってマネジメントシステムのPDCAの関係が整理され、組織はマネジメントシステムをより有効に運用できるようになりました。今回の改定を機に、組織は何のためにマネジメントシステムを導入し、どう運用し、どのような成果を達成するのかという、規格の原点に立ち返ることにもつながります。

  • ※1 共通要素
    ISOマネジメントシステム規格を策定または改定する際に採用する共通の規格構造、共通のテキスト(要求事項)、共通用語・定義
審査事業センター 審査技術部 次長 福田 歩

共通要素の採用による改定の特徴

共通要素を採用したマネジメントシステム規格に取り組むことで、組織は形骸化したISO活動の見直しや重いマニュアル・手順の軽減などを行うことができ、より組織の実情に合ったマネジメントシステムの構築・運用が期待できます。
共通要素の採用による2015年版のISO 9001、ISO 14001のポイントは、次の5つです。

図1:5つのポイント

1.意図した成果に向けたマネジメントシステム

組織の戦略、経営のためのマネジメントシステムへ

共通要素の大きな特徴は、意図した成果の考え方が盛り込まれたことです。項番4(組織の状況)、項番5(リーダーシップ)に「意図した成果を達成する」という文言が記述されていますが、2015年版のISO 9001、ISO 14001規格全体の根底をなす考え方です。
意図した成果とは、「組織がマネジメントシステムを構築、実施、維持することにより、達成したいこと」と言い換えることができます。達成したいことを決めるのは、組織のトップマネジメントです。マネジメントシステムは、意図した成果へ向けて、さまざまな手段を駆使してPDCAを回していくものですが、2015年版のISO 9001、ISO 14001では、そのためにトップの深いかかわりが不可欠であることが示されました。
項番5.1(リーダーシップ及びコミットメント)では、トップマネジメントはマネジメントシステムの方針及び目標を組織の戦略的方向性及び組織の状況と両立させることを確実にすることが要求され、本来マネジメントシステムと組織戦略は切り離せないことを明確にしました。
近年、企業経営では、先見性・リーダーシップに加え、戦略的思考、ステークホルダーとの協働、経営戦略・リスク等の開示、企業戦略の方向性の提示などが強く求められるとともに、社会の急激な変化に対応しなければなりません。こうした時代の要請に対応するためにも、トップのリーダーシップのもと、本来の意図した成果を達成するためにISOを活用することが重要です。(図1)

図1

2.要求事項と事業プロセスの統合

本末転倒にならず、全体最適と相乗効果を追求

共通要素の項番5(リーダーシップ)では、トップマネジメントの責務として組織の事業プロセスにマネジメントシステムの要求事項を統合することが要求されています。
意図した成果は、日常的な事業活動の積み重ねにより実現されます。事業プロセスとは、組織の本来の事業活動=ビジネスのことを指します。意図した成果は組織の事業プロセスの先にあり、事業プロセスにマネジメントシステムの要求事項を差し込むことでプロセスの最適化を図ります。このようにマネジメントシステムを「組織の戦略的方向性と両立」させ、「事業プロセスへの要求事項の統合」させることを確実にすることによって、意図する成果の達成に向けた相乗効果が期待されます。(図2)

図2

トップマネジメントは、要求事項と事業プロセスの統合を確実にし、リーダーシップを発揮して、全体最適・相乗効果への道を示していくことが求められます。(図3)

図3

3.あらかじめリスクに配慮したマネジメントシステム

「転ばぬ先の杖」=リスクを多角的にとらえ、計画的に対処

共通要素は、リスクマネジメント・ベースの指針であり、特に項番6(計画)は、意図した成果の達成に対する組織に内在するリスク及び機会を特定し、それに対する計画的な取組みについての考え方を示しています。
一度の失敗で、組織が致命的な影響を被る場合は、失敗に学ぶという手法には限界があります。「転ばぬ先の杖」の日々の対応が必要で、マネジメントレベル、現場レベルを含む全組織レベルでリスク及び機会に備えていくことが重要です。なお従来の予防処置はこの取組みの一部となり、予防処置という用語はなくなりました。

4.形式にとらわれない文書化

電子データ等の利用で広がった文書管理方法

共通要素の項番7(支援)のうち、7.5(文書化した情報)により、従来の規格の文書管理や記録の管理が文書化した情報の管理に統合され、組織は形式にとらわれない、自由なスタイルの管理方法を採用できるようになりました。電子データ、図版、画像、音声なども利用可能にする意図がありますが、それにとどまらない利点があります。
マニュアルなどの整った文書様式は、業務を整理できるなどのよい点もありますが、それが足かせとなり、作業負担増や二重管理化の温床になるケースも考えられます。形式にとらわれない文書化が可能になったことで、事業プロセスで通常使われている文書やデータ等を、そのまま利用することが可能になり、文書管理の形骸化、二重管理化の解消につながります。
新しい規格では、マニュアル自体、マネジメントシステムに必須ではなくなりました。この機会に組織は、文書体系を見直し、マニュアルの廃止もできます。ただ、これまで同様マニュアルを使うことも選択肢の一つです。改訂や新規作成など、やりやすい形で対応することができます。
なお審査では、マニュアルや手順書よりもトップマネジメントや現場へのヒアリングが重視されます。

5.パフォーマンス評価

PDCAサイクルのCの強化へ

共通要素では、項番9(パフォーマンス評価)が設けられました。これにより、意図した成果へ向かっているか、パフォーマンスの監視・測定・分析・評価を実行し、それを通じてマネジメントシステムの有効性を評価するという2つの視点が明文化、 PDCAサイクルのC(チェック)が強化されました。
パフォーマンスは「測定可能な結果」、有効性は「計画した活動を実行し、計画した結果を達成した程度」と定義されています。パフォーマンスは有効性を判断する材料・データととらえられます。例えばパフォーマンス指標に苦情件数を採用する場合には、苦情件数が減少すればパフォーマンスに寄与したと評価することができます。
マネジメントシステムでは、パフォーマンスの結果と有効性を評価し、場合によってリスク及び機会の取組みに立ち戻って、改善プランを立てることになります。