情報誌 ISO NETWORK Vol.27

特集 ISO 9001、ISO 14001 2015年版発行 第三部 2015年版のISO 14001を読む 環境と経営を一体化し、ダイナミックで戦略的な環境マネジメントシステムに

新規格のねらい

持続可能な社会の実現のため、事業経営と環境マネジメントシステムを一体化

2015年版のISO 14001のねらいは、持続可能な社会へのさらなる貢献と、組織が事業活動と一体化した環境マネジメントシステム(EMS)を計画、運用することで、組織の環境パフォーマンスを向上させるための枠組みを提供することです。

ISO 14001が1996年に発行されて以来20年近い年月が経過し、企業のビジネススタイルや産業構造は変化するとともに一段と多様化が進んでいます。一方、気候変動や資源の枯渇などの環境問題はますますグローバル化、深刻化しています。

2015年版のISO 14001では、「経済、社会、環境」という持続可能性の3つの柱(トリプルボトムライン)のうち、「環境」にフォーカスし、EMSを環境保全に貢献するものとして位置付けています。すなわち、組織がさまざまなステークホルダーと連携し、戦略的に事業を展開するうえで経済、社会、環境のバランスをとりながら、持続可能な社会につながることの重要性が示されています。

新規格の注目ポイント、メリット

2015年版のISO 14001への規格改定の大きなポイントに、経営層のコミットメントを強化することにより組織においてEMSの責任の所在を明確化した「リーダーシップ」があります。さらに、組織の内外の状況を把握し、自社の事業を取り巻く環境上のビジネスリスクやチャンスを特定し、経営計画や事業運営に取り込み戦略的なEMSを計画し、運用することも挙げられます。

従来のISO 14001では、著しい環境側面や法的要求事項等に対して、環境方針に基づいて管理することが展開されてきましたが、それらに加えて、環境問題にかかわる事業上の「リスク及び機会」をとらえて、優先的に対応するための計画を立ててPDCAを回す、ということが要求事項として明示されました。

2015年版のISO 14001には、組織の事業戦略とEMSの活動を一体化し、組織が意図したEMSの成果を効果的に達成できるように、さまざまな意図が反映されています。組織が2015年版のISO 14001に取り組む際に考慮すべき、重要と思われるポイントを以下に示します。

図1:ISO 14001:2015の5つのポイント

1.適切な適用範囲の決定

2015年版のISO 14001では、項番4(組織の状況)で、EMSの適用範囲を決定するための考慮事項について規定しています。例えば、組織が工場や事業所単位でEMSの適用範囲を設定しているケースを考えます。従来のサイト単位での認証取得では、それぞれのサイトの環境負荷低減に対してはEMSの活動が有効となる場合がありますが、本社や関連事業所、サプライチェーンなど組織の事業活動全体から見た場合には、モノの生産や移動に伴う温室効果ガスの排出など、トータル的な意味での環境負荷低減に必ずしも結びつかない可能性があります。このようなケースでは、EMSの適用範囲に本社を組み入れることや、バリューチェーンの上流、下流を含むように適用範囲を見直すことで、変化する周囲の状況に柔軟に対応し、環境パフォーマンスの向上や、組織が意図したEMS成果を効果的に達成することが可能となります。
また、2015年版のISO 14001では、EMSの意図した成果の達成に関連する組織の内外の課題や、利害関係者のニーズを考慮し、適切な適用範囲を決定するように要求しています。このように適用範囲を決めることで、組織は意図したEMSの成果を達成するために、より有効なEMSの運用が可能となり、事業目標の達成にもつながることが期待できます。

2.リーダーシップの強化

2015年版のISO 14001では、EMSを運用するにあたり、経営者のリーダーシップが最も重要な成功要因であると位置付けており、事業活動とEMSを一体化させるために、トップマネジメントの積極的な関与を要求しています。
項番5(リーダーシップ)では、トップがEMSの有効性について説明責任を負うことや、組織の戦略的方向性と両立した環境方針、環境目標を設定し、EMSを事業プロセスへ統合させることなどを要求しています。こうした一連のトップの責任を明確にすることで、組織が意図したEMSの成果の達成に向けてパフォーマンスを向上するとともに、リスクベースの組織情報に基づいた高いレベルの戦略的な視点でEMSの実効性を上げていく活動につながることが期待できます。

3.環境パフォーマンスの向上

2004年版までのISO 14001は、EMSに対して「仕組みの継続的な改善」に重点が置かれていましたが、2015年版では、実効性のある活動や結果を伴った、環境パフォーマンスの向上を重視する、という方向性が明確化されています。
具体的には、項番4.4(環境マネジメントシステム)や項番10.3(継続的改善)で、環境パフォーマンスを向上することが規格の意図として示され、項番6.2.1(環境目標)ならびに項番6.2.2(環境目標を達成するための取組みの計画策定)では、指標を設定し、計画段階で結果を評価する方法を策定することが求められています。さらに項番8.1(運用の計画及び管理)では、プロセスに関する運用基準の設定が求められ、項番9.1.1(一般)で環境パフォーマンスを監視、測定、分析、評価することで、環境パフォーマンス、及びEMSの有効性を評価することが要求されています。
そして、環境パフォーマンスに関する情報を組織の内外にコミュニケートすることや、EMSの有効性に関する結論をマネジメントレビューのアウトプットとすることも要求されており、こうした一連の活動に対してPDCAサイクルを効果的に回すことで、環境パフォーマンスの向上につなげることが意図されています。

4.ライフサイクル思考

2015年版のISO 14001では、EMSによる管理と影響の範囲を、自組織が調達する製品・サービスの環境管理だけでなく、原料の採取段階から、製品の使用、消費、廃棄に至るまで、ライフサイクル全体に広げることが要求されています。
項番6.1.2(環境側面)では、組織が管理できる環境側面、影響を及ぼすことのできる環境側面、及びそれに伴う環境影響を決定する際には、ライフサイクルの視点を考慮することを要求しています。
項番8.1(運用の計画及び管理)でも、組織の上流(サプライチェーン)及び下流(製品・サービスの提供に伴う物流、販売、使用から最終廃棄に至る流れ)に関してライフサイクルの視点を考慮することを要求しています。
ライフサイクルの視点が強化されることで、製品設計段階やアウトソース先の管理など、組織の環境活動に幅ができることが期待できるほか、環境パフォーマンスの向上を含む実効性のあるEMSを展開することが期待できます。

5.内外コミュニケーションの重視

ディーゼル車やマンションの基礎工事問題が連日ニュースで取り扱われ、企業の情報公開に対する信頼性や期待が、ますます高まってきています。さらに、利害関係者に対する組織の信憑性や透明性に対する説明責任への期待が求められていることから、2015年版のISO 14001では、コミュニケーションに対する要求事項が強化されています。
項番7.4(コミュニケーション)では、コミュニケーションプロセスの計画に際しては、順守義務を考慮に入れること、さらに、伝達される情報には信頼性があることを確実にすることを要求しています。これは、コミュニケーションプロセスで取り扱われる情報は、項番9.1(監視,測定,分析及び評価)によって分析・評価し、トレーサビリティを確保して検証可能とする、信頼性のある環境情報を利害関係者等に提供することが意図されています。
コミュニケーションに関する要求事項は、項番4.3(環境マネジメントシステムの適用範囲の決定)や項番5.2(環境方針)、項番6.2.1(環境目標)など、2015年版のISO 14001規格全般にわたって反映されており、コミュニケーション重視の考え方が強化されることで信頼性の高いEMSを展開することが意図されています。

ISO 14001:2015の5つのポイント