情報誌 ISO NETWORK Vol.27

特集 ISO 9001、ISO 14001 2015年版発行 第二部 2015年版のISO 9001を読む

ISO 9001:2015規格の概要とJQAの審査の視点

2015年版のISO 9001では、前ページで述べた5つのポイントに加え、より現場力が重視されています。一方、JQAでは、従来から三現主義(現場、現物、現実)に基づく現場重視の審査を提供してきました。このことは、JQAの審査手法が決して間違いではなく、むしろ規格の方がJQAの審査手法に追いついてきたことを示していると言えるでしょう。他の認証機関と一味違うJQA審査の特徴を知っていただくため、以下で規格の概要を述べる際に、現場における留意事項を併せて記載していきます。

なお便宜上、規格の項番ごとに審査の視点とチェックポイントを記載しますが、実際の審査では業務の流れに沿って質問をしていくプロセス審査を行いますので、一部の審査機関が行っているような項番を先頭から質問していく形式では決してありません。

ISO 9001:2015 の構成 (黒字は共通要素の要求事項、赤字はISO 9001の固有要求事項)

序文 ISO 9001の目的と原則

序文には2015年版のISO 9001のねらいと原則などの基本事項が記述されています。
序文の項番0.1(一般)では、組織がISO 9001に取り組むことで得られる可能性のある便益として、「顧客の要求事項、順守事項を満たした製品及びサービスの一貫した提供」「顧客満足の向上の機会増大」「組織の状況及び目標に関連したリスク及び機会への取組み」「この品質マネジメントシステム規格の要求事項への適合を実証できること」を挙げています。

項番0.2(品質マネジメントの原則)では、「顧客重視」「リーダーシップ」「人々の積極的参加」「プロセスアプローチ」「改善」「客観的事実に基づく意思決定」「関係性管理」の7項目を挙げています。

項番0.3(プロセスアプローチ)では、ISO 9001の仕組みを運用することによって、プロセスアプローチが促進されることを述べています。また、プロセスが集合してシステムになり、それにより目的の結果を出すことができることを示しています。さらに、項番4から10までの要求事項とPDCAサイクルとの関係、2015年版で新たに採用されているリスクに基づく考え方などについて触れています。

項番1. 適用範囲 規格の目的を示す

項番1(適用範囲)は、どのような組織がISO 9001の規格を使って品質マネジメントシステムを構築することができるか、このISO規格を利用できる組織の範囲を示しています。すなわち、ISO 9001は、「組織が顧客の要求事項、順守事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力があることを実証する必要がある場合」、「品質マネジメントシステム改善のプロセスを含むシステムの効果的な適用、顧客の要求事項、順守事項を満たしたことの保証を通じて、顧客満足向上を目指す場合」の品質マネジメントシステム要求事項を定めたものだとしています。一方、組織の分野については、業態、規模、製品及びサービスを問わず、あらゆる組織に適用できるとしています。

項番2. 引用規格

ISO 9001:2015に用いる用語と定義は、ISO 9000:2015(品質マネジメントシステム―基本及び用語)が引用されていることが述べられています。

項番3. 用語及び定義

ISO 9001:2015の用語と定義は、全て用語集であるISO 9000:2015(品質マネジメントシステム―基本及び用語)で提供されていることが述べられています。

項番4. 組織の状況 品質マネジメントシステム構築の準備段階で組織が意識すべき事項

項番4(組織の状況)は、品質マネジメントシステムを構築するための前提条件を提示しています。項番4.1(組織及びその状況の理解)と項番4.2(利害関係者のニーズ及び期待の理解)では、組織の事業目的及び戦略的な方向性に関連した「意図した結果」に影響する外部及び内部の課題、品質マネジメントシステムに関連する利害関係者とその要求事項を決定し、監視、レビューすることを要求しています。事業を取り巻く環境変化や利害関係者のニーズへ柔軟に対応し、変化に素早く対応することが、品質マネジメントシステムや事業として効果的な成果を得ることにつながることを示しています。

項番4.3(品質マネジメントシステムの適用範囲の決定)は、内外の課題や関連する利害関係者の要求事項に対応できる適用範囲にすることが必要であるという内容です。決定した適用範囲は、文書化した情報としなければなりません。なお、適用不可能な要求事項がある場合、組織はその正当性を示す必要があります。

項番4.4(品質マネジメントシステム及びそのプロセス)は、項番5以降の要求事項に基づいて、組織内にどのようなプロセスが存在し、そしてそれらによって、どのように品質マネジメントシステムを構築、維持、改善するかについて述べています(プロセスアプローチ)。組織は、プロセスのPDCAサイクルを効率的、効果的に運用管理し、全体最適化を図ることで、最大のアウトプット(意図した結果)を得ることができます。項番4.4.2の「維持」と「保持」については、「維持」は適切に修正を加えながら維持される文書(ルール)を、「保持」は保管される記録(取組みの証拠)を意味します。

◎審査の視点とチェックポイント

項番4.1(組織及びその状況の理解)では、「意図した結果」という用語が用いられていますが、これは「何のためにISO 9001に基づく品質マネジメントシステムを組織が構築するか」と言い換えることができます。日々刻々と変化していく内外の状況に、組織が構築したマネジメントシステムをいかに対応させているかについてが審査のポイントになります。

項番4.2(利害関係者のニーズ及び期待の理解)では,利害関係者を特定し、その期待を理解したうえで、組織がマネジメントシステムをどのように構築しているかの確認が審査のポイントです。また、利害関係者からの要求事項についても、同じくその変化に対応して組織がPDCAサイクルを回しているかについてもポイントとなります。ただし、利害関係者は、品質マネジメントシステムに密接に関係する者に限定されます。

項番4.3(品質マネジメントシステムの適用範囲の決定)では、構築するマネジメントシステムの適用対象として適切な範囲が決定されているかが審査のポイントです。その際には、項番4.1(組織及びその状況の理解)及び項番4.2(利害関係者のニーズ及び期待の理解)で把握した情報を考慮に入れているかも審査します。なお、適用範囲については、それを示す文書化した情報が求められているため、その存在・内容について確認します。

項番4.4(品質マネジメントシステム及びそのプロセス)では、マネジメントシステムを構築する際に組織が意識した、必要なプロセスの相互関係(作用)について確認することが審査のポイントになります。

項番5. リーダーシップ トップマネジメントの責任の明確化

項番5.1(リーダーシップ及びコミットメント)に述べられているリーダーシップとは、トップマネジメントが自ら行う事項を指し、コミットメントとはトップマネジメントとして果たすべき役割を意味します。

項番5.1.1(一般)は、トップマネジメントが品質マネジメントシステムの有効性に説明責任を負うことを要求しています。さらに、組織の事業目的及び戦略的方向性に基づいた「意図した結果」の達成に向けて、トップマネジメントの主導による構築・運用が求められること、そのために品質マネジメントシステムの要求事項を事業プロセスへ統合し、必要な資源の確保と同時に、関連する管理層(部長、課長レベル)がリーダーシップを発揮するための支援を行う必要があることを明らかにしています。

項番5.1.2(顧客重視)では、顧客満足度を高めるためには、顧客要求事項及び法令・規制要求事項を順守し、適合した製品・サービスを継続的に提供することが必要となることが述べられています。顧客要求事項への適合や顧客満足の向上に必要な能力を確保するうえでのリスク及び機会がある場合は、それを明確にして、トップマネジメントのリーダーシップによる取組みが必要となります。

項番5.2(方針)では、トップマネジメントは、組織の戦略的な総合力につなげるために、組織の目的及び状況に沿って方針を確立し見直すことで、具体的な形で方向付けを行い、関連する部門・要員の考え方や行動などに共通認識を持たせることが必要であることを明らかにしています。品質方針は、組織の実情に合ったものである必要があります。どの組織でも適用可能な内容では、かえって組織内に理解・浸透させることが困難になります。

項番5.3(組織の役割、責任及び権限)については、トップマネジメントが責任権限を割り当てるという要求事項は変わりませんが、管理責任者という肩書きである必要はなくなりました。

◎審査の視点とチェックポイント

項番5.1.1(リーダーシップ及びコミットメント)の審査としては、トップマネジメントによるリーダーシップの発揮とコミットメントの実践状況をトップインタビューで確認することになります。特に以下の項目がポイントになります。b)では、品質方針及び品質目標策定における事業環境その他の背景や、方針や目標を確実に策定させるためどのような仕組みとしているか、どのように管理しているかを確認します。c)では、トップマネジメントがどの程度積極的に、品質マネジメントシステムをビジネスに有効利用しようとしているか確認します。h)では、適用範囲内の要員をどのように主導しているか確認します。j)では、関連する管理層の責任範囲が明確になっているかを確認します。

項番5.1.2(顧客重視)では、顧客重視に関するトップマネジメントの「リーダーシップ及びコミットメント」を確認しますが、新たに、項番6.1(リスク及び機会への取組み)に基づく「リスク及び機会」が決定され、それらへ取り組んでいること、顧客満足向上の重視が維持されていること等を実証していただくことが審査のポイントです。

項番5.2(方針)では、まず品質方針が文書化した情報として存在するか確認します。組織の基本理念として、品質にかかわる総体的な意図及び方向性が明示されているかが審査のポイントになります。また、品質方針の伝達方法についても審査します。

項番5.3(組織の役割,責任及び権限)では、トップマネジメントにより割り当てられた責任と権限について、どのように要員へ伝達されているかその手段を審査することがポイントです。また、実際に割り当てられた者に対して、自らの責任と権限についてその内容を確認します。同時に、当該の割り当てられた者が、どのような内容をトップマネジメントに対して報告しているかも確認します。

現場における留意事項

項番5.2(方針)

品質方針の内容が現場に浸透しているかどうかについて確認するため、審査では要員に対するインタビューが行われます。現場に対するトップダウンのコミュニケーションの仕組みが機能しているかが重要です。
品質方針の内容について暗記する必要はありませんが、少なくともトップマネジメントが品質方針の中で最も強調したい点を各要員が認識しているかについては、審査で確認されることに、留意してください。

項番6. 計画 リスク及び機会を意識した計画の策定

項番6.1(リスク及び機会への取組み)では、業務運営に「リスクに基づく考え方」を導入することにより、事前に想定しうる事態に対して、あらかじめ対応策をとることが、より効率的・効果的な成果につながることを述べています。

項番6.2(品質目標及びそれを達成するための計画策定)では、品質目標は「QMSに必要で関連するプロセス」にも設定する必要があることを述べています。目標達成に向けた計画は、具体的に設定する必要があります。項番6.2.2では、目標を達成するために「実施事項」「資源」「責任者」「完了時期」「評価方法」の、いわゆる5W1Hを決めることを求めています。

項番6.3(変更の計画)では、品質マネジメントシステムの変更は多くのリスクが潜在している場合が多いため、変更の実施においては、変更の目的との整合性、実施するうえでの潜在的な影響(リスク)などを考慮し、計画的かつ体系的に行う必要があることを述べています。

◎審査の視点とチェックポイント

項番6.1(リスク及び機会への取組み)では、①どのリスク及び機会について取り組む必要があると決定しているか、②実際に取り組んだリスク及び機会について、その取組みが有効であったかを組織自らが確認しているかが審査のポイントです。

項番6.2(品質目標及びそれを達成するための計画策定)では、品質目標を文書化した情報とすることが求められていますので、その存在・設定内容を確認します。品質目標は、定量評価が必須ではありませんが、少なくとも具体的な項目ごとに○×(達成できたかどうか)が分かるような内容になっているかがポイントです。また、品質目標を達成するためのアクションプランの策定が求められていますので、誰が責任者・担当者で、何をどのように、いつまでに実施するのか(いわゆる5W1H)が明確に策定されていることがポイントになります。なお達成期限の審査では、進捗管理がなされていることも確認します。

項番6.3(変更の計画)では、マネジメントシステムレベルでの変更管理についての確認が審査のポイントです。

現場における留意事項

項番6.1(リスク及び機会への取組み)

現場ですでに実施されている対策が、どのリスクを下げるため、どの機会を獲得するために実施されているのかについて、意識してください。それにより、本当にそのリスクが低減されたか、その機会を活用したかを監視・測定することが可能となり、結果として対策の有効性をチェックすることにつながります。

項番6.3(変更の計画)

2015年版の要求事項においてさまざまな階層(マネジメントシステムレベル、プロセスレベル、製品及びサービスレベル)で変更管理の要求が強化されたことは、“リスクベースの思考”につながるものです。現場におけるクレームやトラブルの多くは、何かを変更した際に多く発生することに留意ください。 変更を管理するためには、現場の情報がいかに上がってくるかというボトムアップコミュニケーションの仕組みが重要です。また現場では、変更点(変化点)の前後において、リスクを確実に把握・管理することに留意してください。

項番7. 支援 QMSの運用に向けた支援

項番7.1(資源)では、品質マネジメントシステムの効果的な運用には、要員個人の努力のみでなく、外部提供者から入手するものも含め、資源の運用管理が必要となることを述べています。そのためには現状を把握し、必要な資源を計画的に確保し対応することが必要です。

項番7.1.5(監視及び測定のための資源)は、サービス業を意識して一部内容が変更になっています。この項番では、機器のみでなく、人、方法なども含めた資源管理が必要であり、特にサービス業などでは、サービス提供者やその提供方法などの資源管理も重要となることを述べています。

項番7.1.5.1(一般)は製造業、サービス業の両方に適用できる一般論、項番7.1.5.2(測定のトレーサビリティ)は主に製造業を対象とした内容になっています。

項番7.1.6(組織の知識)は、プロセス運用、製品及びサービスの適合性達成のために、組織として蓄積された技術情報やノウハウなどの活用が不可欠となることが示されています。組織の内部・外部からのニーズや傾向の変化に対応するためには、これらの蓄積された「知識」を効果的に活用することが望まれます。

項番7.2(力量)は、製品要求事項への適合のみでなく、例えば品質目標の達成や品質マネジメントシステムのパフォーマンスを得るためには相応の力量が必要であり、必要力量及び保有力量の管理が必要であることを述べています。

項番7.4(コミュニケーション)は、2008年版の項番5.5.3(内部コミュニケーション)に対応しますが、2015年版では外部とのコミュニケーションが新たに追加されています。またこの項番7.4では、利害関係者のニーズ・期待に適切に対応するため、必要な情報をタイムリーに収集し、伝達することで確実なコミュニケーションの確保につながることが述べられています。

項番7.5(文書化した情報)では、品質マニュアルの作成が要求事項ではなくなりました。この項番では、事業プロセスへの統合の観点からは、特別の文書作成を行うのではなく事業プロセスの中で「組織が必要と決定した文書」を活用することが効率的となることが述べられています。組織として現在設定されている品質マニュアルが有効活用されていれば「組織が必要と決定した文書」として扱うことが効果的となります。

◎審査の視点とチェックポイント

項番7.1(資源)は、従来とほぼ同一の内容ですが、項番7.1.6(組織の知識)は新たな要求事項ですので、重点的に確認します。同項では組織が保有する知識のマネジメントを要求しており、その伝承が具体的にどのように行われているか審査で確認します。

項番7.2(力量)では、力量の証拠として文書化した情報を保持することを要求していますから、その存在と内容を確認します。もし教育・訓練に使用したテキストがあれば、その内容についても確認します。

項番7.3(認識)では、現場インタビューで、要員の認識状況について確認します。

項番7.4(コミュニケーション)では、コミュニケーションのプロセス(仕組み)についての5W1Hについて審査します。なかでも外部コミュケーションは新たな要求事項ですから、重点的に確認します。対象は、全ての外部の利害関係者ですが、顧客については項番8.2.1(顧客とのコミュニケーション)、外部提供者については、項番8.4.3(外部提供者に対する情報)でさらに詳細な要求がありますので、ここではそれ以外の利害関係者を意識しているかについて確認します。

項番7.5(文書化した情報)では、品質マニュアルについては要求事項がなくなりましたが、維持されている場合は、その使われ方を踏まえてマニュアルの改定状況を審査します。文書化した情報は紙媒体だけでなく、電子媒体への対応も含んでいますので、CIA(機密性・完全性・可用性)※2の3つの概念について、どのような管理をしているかを審査する場合があります。

  • ※2 情報セキュリティの3大要素 
    Confidentiality「機密性」、Integrity「完全性」、Availability「可用性」の頭文字

現場における留意事項

項番7.1.6(組織の知識)

現場において、特定の個人がいないと仕事が回らないといったことは、品質マネジメントシステム上、好ましいことではありません。ある日突然、欠員が生じても、代わりの人がすぐに引き継げるように知識を伝承する仕組みを整えておく必要があります。

項番7.3(認識)

組織の品質目標は何であるかを現場の要員が確実に理解し、また品質目標の実現に向けて各自がどのような活動を意識して行っているかについても認識することが重要です。

項番7.5(文書化した情報)

事務局が文書化した情報(文章/様式類)を改訂したにもかかわらず、最新版が現場で使用されていない状況が従来からの審査でもしばしば見受けられましたので留意してください。

項番8.運用 ISO 9001固有の要求事項を追加

項番8.1(運用の計画及び管理)は、製品及びサービス提供に対する要求事項を満た項番8.運用ISO 9001固有の要求事項を追加するために、必要かつ最適なプロセスの設定と、リスク及び機会へ取り組むために必要なプロセスの計画、運用が必要であることを述べています。組織を取り巻く内外の環境の変化に対応していく中で、組織の目的、意図した結果の確実な達成のために、計画した変更の管理、さらには意図しない変更の結果のレビュー、その結果を踏まえた処置の実施が求められます。

項番8.2.1(顧客とのコミュニケーション)、項番8.2.2(製品及びサービスに関する要求事項の明確化)、項番8.2.3(製品及びサービスに関する要求事項のレビュー)の順序には意味があります。お客さまへのコンタクト、お客さまの要求事項の確認、その案件を引き受けられるかの確認、という実際の営業プロセスに沿って構成されています。

項番8.3.3(設計・開発へのインプット)は、不明確な要求事項をそのままにして設計・開発のステップを進めると、設計・開発のやり直しや修正・変更の増加などのリスクが増大することを示しています。リスクを低減するためには、設計・開発の開始段階で、潜在する懸念要因も含めた要求事項の明確化が必要です。これは、「最初から正しく」の源流管理の視点です。

項番8.4(外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理)によって、アウトソース管理の扱いが明確になりました。2008年版の項番7.4(購買)の「供給者」という用語が、ここでは「外部提供者」という言葉に変わりました。

項番8.5.1(製造及びサービス提供の管理)では、ヒューマンエラーの防止処置が新たに求められるようになりました。

項番8.5.5(引渡し後の活動)で述べているのは、製品及びサービスは引渡し後の活動までが要求事項となる場合についてです。引渡し後の活動が必要な場合は、想定されるリスク、製品のライフサイクルなどを踏まえて計画・対応することが顧客要求事項や法規制の順守につながります。

項番8.5.6(変更の管理)では、製造またはサービス提供に関して、変更があった場合には、変更における影響の範囲をレビューし、必要な範囲で顧客要求事項や法規制などから逸脱しないように管理する必要があることを述べています。

項番8.7(不適合なアウトプットの管理)は、サービス業に配慮したことを受け、従来の「不適合製品の管理」からタイトルが変更されました。

◎審査の視点とチェックポイント

項番8.1(運用の計画及び管理)では、プロセスが計画通りに実施されたという確信を持つことができる程度の情報や、製品・サービスへの要求事項を実証する必要な程度の情報など、組織が必要と思う程度の文書及び記録は、維持及び保持しなくてはなりません。そのため、その存在と中身について確認します。

項番8.3(製品及びサービスの設計・開発)は、設計・開発の内容自体は要求事項が簡素化・柔軟化しましたが、審査の手法は変わりません。

項番8.4(外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理)では、購買の形態をa)b)c)の3つに分類しているので、その点について抜けや漏れがないか審査します。

項番8.5.1(製造及びサービス提供の管理)は、a)からh)までありますが、該当する場合には、要求事項となるため、審査の対象となります。特にg)については、ヒューマンエラーの処置に対するもので、新たな要求事項ですから重点的に確認します。

項番8.5.5(引渡し後の活動)は、アフターサービスの重要性が考慮され、独立した項番となりましたので、新たな要求事項として審査します。

項番8.5.6(変更の管理)は、製造及びサービス提供における変更の管理が対象ですので、それについて審査します。

現場における留意事項

項番8.3(製品及びサービスの設計・開発)

従前は、現場に設計・開発の要求事項を適用する余地がないため適用除外とするという状況が見受けられました。今後は現場の状況を踏まえ、設計・開発の適用について検討の土俵に乗せ、その可能性を柔軟に判断していただけることが望まれます。設計・開発の要求事項を適用することで、ISO 9001を効率的に活用することができ、ひいては現場力を高めることが可能となる場合があります。設計・開発プロセスとは、いわば要求事項の達成手段を決めることであると考えてもよいので、これから発生しうるかもしれないリスクをヘッジすることが可能になるでしょう。ただし項番4.3に則って検討した結果、従前どおり適用不可能という判断をされることについては問題ありません。

項番8.4(外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理)

外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理においては、リスクの大小に応じた方法をとることで問題はありません。

項番8.5.1(製造及びサービス提供の管理)

現場においてすでに5S活動を実施している場合は、ヒューマンエラーを防止するための処置として有益と考えられますので、ISO活動との一体化が容易になったことに留意ください。ヒューマンエラーを防ぐには、コミュニケーションを密にすることも重要です。それにより、変化またはリスクの顕在化に起因するヒューマンエラーを未然に防ぐことが可能になります。

項番8.5.6(変更の管理)

現場で発生した想定外の変更への対応が重要です。例えば、設備の予期せぬ故障、インフルエンザ等のパンデミックによる欠勤の多発などが考えられます。

項番9. パフォーマンス評価 パフォーマンス指標を設定し、改善につなげる

項番9.1.1(一般)には、「パフォーマンス」と「有効性」という用語があります。「パフォーマンス」とは測定できるデータのことであり、「有効性」とは測定データ(パフォーマンス)に基づいて、計画した結果に対する良し悪しを評価するものです。この項番では、監視及び測定の対象や方法を明確にし、適切なタイミングで監視、測定、分析及び評価することで「意図した結果」に対する有効性を確認し、パフォーマンスの向上につなげることを要求しており、活動に対してマネジメントシステムが有効に機能しているかについての監視・測定は、品質マネジメントシステムの改善につながる大きな要素となることを述べています。

項番9.1.3(分析及び評価)には、パフォーマンス評価の目的が示されています。分析及び評価の結果を改善につなげるには、現状と意図した結果との差異(ギャップ)を見出すことが必要となり、そのためには分析及び評価結果をいかにして使うかを明確にし、それに見合ったデータの収集や評価基準の設定が望まれます。分析及び評価の結果は、マネジメントレビューへのインプットに使用されます。

項番9.2(内部監査)では、内部監査の目的は、マネジメントシステムの有効性を確認し、改善につなげることにあることを述べています。内部監査にかかわる要求事項は、基本的に2008年版と大きく変わりませんが、監査結果を各関連部署、プロセスの管理層に報告することで、改善を促進することを目指しています。また、手順書の要求がなくなりました。

項番9.3(マネジメントレビュー)では、事業プロセスと整合したマネジメントシステムの運用では、外部・内部の課題の変化に対応したマネジメントレビューが必要であること、そして、品質マネジメントシステムにおける改善の機会も踏まえ、項番9.1.3(分析及び評価)の結果を活用したマネジメントレビューの実施が要求されています。マネジメントレビューは会社全体の状況を見て、トップが指揮をして処置を行います。内部監査の結果も、マネジメントレビューのインプットに含まれます。

◎審査の視点とチェックポイント

項番9.1.1(一般)では、監視測定の結果は、文書化した情報(記録)として保持しなければならないため、その存在及び内容について審査で確認します。

項番9.2(内部監査)では、内部監査実施の頻度を確認します。当該頻度について、部門別、部署別、あるいは規格の項番別などの観点からその妥当性を審査します。また、監査プログラムの実施及び監査結果の証拠として文書化した情報を保持する必要がありますので、その存在及び内容について確認します。

項番9.3(マネジメントレビュー)の審査では、マネジメントレビューの開催間隔を確認します。実質的で効果的な間隔で設定されていることがポイントになります。マネジメントレビューで見出された改善のテーマを確認するとともに、組織がそのフォローを行っているかについても確認します。また、マネジメントレビューの結果は、文書化した情報として保持しなくてはならないので、その存在と内容を確認します。

現場における留意事項

項番9.2(内部監査)

内部監査は、いわば組織にとっての人間ドックと同じですので、現場が審査員に対してありのままの現状を提示することが重要です。それにより組織としてのウイークポイントが明らかになり、改善点が明確になります。

項番10. 改善 各種改善(マネジメントシステム、プロセス、製品やサービスの品質)

項番10.1(一般)は、顧客要求事項を満たして顧客満足の向上を図るためにはプロセス改善、製品及びサービスの改善、マネジメントシステムの改善が必要であることを述べています。

項番10.2.1には、「修正」と「是正処置」という用語が出てきます。「修正」とは対処的な処置であり、「是正処置」とは再発防止のための処置を意味します。

項番10.3(継続的改善)では、事業を取り巻く内部及び外部の課題の変化に対応し、マネジメントシステムの適切性、妥当性及び有効性を継続的に改善することが、当該マネジメントシステムの効果的な運用となることを述べています。

◎審査の視点とチェックポイント

項番10.2.2で、是正処置の結果について文書化した情報(記録)を確認します。

現場における留意事項

項番10.2.1

是正処置の前に、修正処置を行うことが明確に要求されましたので、現場での早急な対応が求められます。
是正処置を行う際には、再発防止を考慮して、例えば現場で行われている「なぜなぜ分析」などもISOの中に取り込むことが重要です。また、是正処置の一環として水平展開も重要ですので、現場間の横方向のコミュニケーションの必要性について留意してください。一方、修正処置や是正処置については、現場から管理層に対して情報がいかに伝わっているか、縦方向のコミュニケーションも重要となります。管理層が満足しているだけで、現場は不満に思っている修正や是正処置はなかったか確認することに留意してください。

附属書A(参考) 新たな構造、用語及び概念を明確にするための参考情報

2015年版のISO 9001は、箇条の構造及び一部の用語が、共通要素の採用によって2008年版から変更されています。附属書Aでは、A.1でISO 9001:2008とISO 9001:2015との間の用語についての主な相違点を記述しています。以下、製品とサービスの違いに触れている「A.2製品及びサービス」、項番4.2に関連した「A.3利害関係者のニーズ及び期待の理解」、主として項番4.1、項番4.4、項番6.1に関連した「A.4リスクに基づく考え方」、項番4.3に関連した「A.5適用可能性」、項番7.5に関連した「A.6文書化した情報」、項番7.1.6に関連した「A.7組織の知識」、さらに項番8.4に関連した「A.8外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理」など新たな構造、用語及び概念を明確にするための参考情報8項目が提供されています。要求事項を理解するうえで大いに参考となりますので、ぜひご一読されることをお勧めします。

ISO 9001:2015 の構成 (黒字は共通要素の要求事項、赤字はISO 9001の固有要求事項)